2015年、仕事はじめ。
ゴールデンウィークやお盆、過去にはシルバーウィークなる連休がある年もあったものだが、そのなかでも、特に深い「休み明け浦島太郎現象」に陥るのが年末年始休暇だと思う。
忘年会だ!大晦日だ!おせちだ!カレーだ!山の神だ!
・・・なんて騒いでいるうちに、自分が勤め人であったことをすっかり忘れてしまい、いまだに本調子ではない気がする。
いや、本調子って何?
毎日ソワソワ、サラリーマンごっこをしているような気分で過ごしたからか、とかく疲れた。
疲れた時といえば、やはり揚げ物。
ガツンとボリューミーなフライが食べたいときは、銀座7丁目の「とんかつ不二」に限る。
去年上司に連れられて以来ファンになり、今年足しげく通いたいと思っているお店のひとつである。
※本日の目次
■こじんまりとした、穏やかな店内
銀座駅から並木通りに出て、交詢社通りへ。
バーニーズニューヨーク(交詢ビル)の方に歩いていくと小さな看板が出ていて、それが指し示す、少し奥まった位置に店はある。
※こじんまり
※この日は中央通りから来てしまったので、並木通りからくる場合、看板は右を指し示すことになる
※道に面していないのでご注意を
ガラガラっと戸を開けると、カウンターのなかにいる奥さんがゆったりとした声で「いらっしゃいませ」と出迎えてくれる。
4人掛けのテーブル席2つに、Lの字型のカウンターには10席ほど。
昼が待ちきれず11時40分ごろに入店したのだが、既に先客が4名おり、いずれもひとりで来店した男性陣だった。
背広、作業着、カジュアル着。
服装も職業も違えど、昼が待てなかったその気持ちは皆同じであろう。
私が腰かけたカウンター席の隣人は、既にとんかつを半分食べ終えていた。
11時半開店なのだが、何時に来たのだろうか。
カウンターにはお盆とお箸があらかじめ置かれており、席に着くと、カウンターからお茶とおしんこを出してくれる。
・・・この流れ、伝票片手に目の前に立たれがちなシチュエーション・・・。
メニュー数が多すぎるということはないのだが、それでも、これだけのバリエーションがあれば多少の吟味タイムがほしいところだ。
右列「盛合せ」あたりに目がいったら最後、その下の「盛合せはお好きなもの2種類組合わせできます」の注釈に気を取られ、何と何を組み合わせようかなんて考えだしてしまう。
その一方で「いかん、奥さんをお待たせしてしまっている!」なんて慌てる気持ちもあって、そんな2つの気持ちがかけあわさった結果、口から出てくるのは「じゃ、エビフライ・・・」(いちばん大きく書いてあり、カツと異なりヒレとロースで悩む必要もない)なんて言葉だったりするのだ。
で、厨房に「エビフライひとつ~」などというオーダーを通す声が聞こえると、「あー、やっぱフンパツして盛合せにすりゃよかった、メンチカツとエビフライの組み合わせとかでさ・・・」と後悔の念が波となって押し寄せてくる。
私はフライの難破船・・・。
・・・なんて妄想劇場を繰り広げておいて恐縮だが、
奥さんは絶対に注文を急かさないのでご安心を。
■15食限定の必殺技、魚フライ
しかし、じっくり悩める環境が提供されていながら、私は初回来店時から同じものしか頼んだことがない。
「魚フライください。ごはん半分、おかず大盛りで」
これである。
前掲のメニューに記載はないが、15食分に限り、魚フライが550円なのだ。
さらに不二さんのなにが素晴らしいって、「おかず大盛り」という選択肢が存在すること!
常日頃から「炭水化物ではなく、おかずでおなかいっぱいになりたい」を胸に生活している私にとって、まさに夢のような選択肢。
はじめてメニューを見たあの日の興奮ぶりといったらなかった。
しかし、「おかず大盛り」という文字だけでは、その真実が不明瞭である。
小鉢が追加されるのかな、と思いつつ奥さんに尋ねてみると、
「フライの量が増えます」
・・・頬をつねる。
痛い。夢じゃない。
あの衝撃を受けた日以来、私は
「魚フライください。ごはん半分、おかず大盛りで」
とお願いし続けている。
(本当はもう一声「キャベツ大盛り」と添えたいのだが、「サブウェイじゃあるまいし、カスタマイズは余所でやれ、小娘」と常連のおじさんに思われたくない、という過剰な自意識が邪魔をして、言えない)
あとからポツポツとやって来るおじさんたちも、こぞって「魚、まだある?」なんて言いながら、550円の魚フライ定食を頼んでいた。
なかには「ごはん少な目でね」なんてお願いしている方もいて、カロリー気にしているのかなあ、なんて思うと実に微笑ましい。
オーダーしてから、目の前にフライが飛び込んでくるまで5~6分といったところだろうか。
カウンターに座っていると、奥の厨房でご主人がフライをつくっているのが見える。
ときにオーダーを復唱しながらテキパキと調理しているのに、纏っている空気はとても穏やかだ。
小さな店内にはテレビもラジオも有線もない。
客もみな単身で黙々と食べるし、奥さんもゆったりしているので、静かな店内に響くのは、フライを揚げる油の音だけ。
とても心地よい。
■「おまちどおさま」の声でウマさ倍増!感激の魚フライ
「お願いします」
ご主人の声が聞こえたかと思うと、カウンターのなかにいる奥さんが、私のお盆にスッとフライを置いてくれた。
「おまちどおさま」
※魚フライ定食(おかず大盛り・ごはん半分)
奥さんのやさしい声とは裏腹に、目の前にあるのは、私が求めに求めていた勇ましい「がっつりフライ」!
おかず大盛りで100円を足しても、これでたったの650円。
見た目だけで、嬉しくて泣けてくる。
用意されている調味料は、テーブルの上にあるソースと、皿に盛られたマヨネーズ、そしてからし。
フライは何もつけずにいただくか、皿のどこかにソースの池をつくり、そこにフライをちょこちょことつけていただくのが「俺流」である。
フライの上にバーッとソースをかけるのは避けたいところだ。
※ただし、キャベツにソースは不可欠
揚げたてフライのカリッ、サクッとした衣と、やわらかい魚。
これだよ、この感じを求めていたんだよ!と唸ってしまう。
銀座という立地とはいえ、上品というよりは、その見た目のとおり勇ましくて元気が出るような魚フライだ。
※タラ×2、サーモン、アジ、キスの5つが盛られている。
※タラだけ多いので、これが「おかず大盛り」を指すのかも(通常盛りを頼んだことがないのでわからない)
口直しに、とキャベツをいただくと、ソースのおいしさに目を見張る。
ややトロッとしたこのソース、とにかく甘い。フルーティー。なんだこのおいしさは!
※入れ物ごと持って帰りたいくらい、好きな味
ソースにおいしさを見出してしまった以上、白米とかけあわさずにはいられない。
ソースをふんだんにかけたキャベツを乗せて
(局所的な)キャベツ丼。
これほどおいしいソースならば、フライの上にかけることも厭わないので、さらにそこに白米をコラボさせて
魚フライ丼。
ここで魚フライだけを先に食べると、フライのカスとソースがわずかに白米を色づけており、ここがまたウマイ。
日の丸弁当における「梅干し跡地」がウマイのと同じである。
■勝つためというより、癒されるためのとんかつ屋さん
お味噌汁とおしんこは、正直なところ特徴をここに書き記せないくらいオーソドックスなものだったけれど、そこがまた良い。
ああ、いま、街の定食屋にいるんだなあ・・・としみじみ実感する。
場所がたまたま銀座なだけだ。
幸せな時間というのはあっという間で、気づけばすっかり完食してしまっていた。
空になっていた湯呑に、奥さんがお茶を注いでくれる。
時間は12時をまわり、限定15食の魚フライのオーダーが続々と入っていく。
混み合ってきても、奥さんとご主人の穏やかなペースは変わらない。
活気づいていてせわしい雰囲気の定食屋というのもいいけれど、心穏やかに、落ち着いてごはんがいただけるお店はありがたい。
調べてみれば、夜は20時半ごろまで営業しているようだ。
お酒は1人3本まで(メニュー参照・これがまた実にいい味を出している)のようだが、一度は夜ご飯をいただきに来たいものである。
650円を払い、やさしい「ありがとうございました」の声に見送られて外に出ると、(ちょっとだけ)仕事をがんばろうという気持ちになった。
思い返せば、初めて上司が私を連れてきてくれた日も、仕事があまりうまくいかずに落ち込んでいたときだった。
あのときも上司のやさしさとお店の穏やかさに背中を押され、元気を取り戻したのだっけ。
とんかつは、「とん勝つ」。
ゲン担ぎの食べ物として愛されてきた一品だ。
不二さんでいただくそれは、「うおお、勝つぞ!」と気合が注入されるというより、「大丈夫、きっと大丈夫」と静かに励まされるもののような気がする。
・・・肝心のとんかつは、まだ、いただいたことがないけれど・・・。
次こそは、とんかつをいただきに来よう。
ごちそうさまでした。
■お店情報(平日のみの営業なのでご注意を)