羊(肉)好きによる、羊好きのための理想実現機関ーー「羊齧協会(ひつじかじりきょうかい)」をご存じだろうか。「羊齧人」すなわち羊肉好きが集う組織であり、羊肉がおいしくいただけるお店の情報交換やそれに伴うオフ会の開催、大型イベントの企画、さらには「日本の羊肉消費の盛り上がりを可視化する指標」として「羊指数」を毎月発表するなど、その活動内容は多岐にわたる。
※公式WEBサイト:羊齧協会
※羊指数:羊指数 | 羊齧協会
今年2月に「協会創立4周年記念・羊齧落語会」なるイベントが開催された。羊も落語も好きだし、ずっと入会したかったし、行ってみるかと思って楽しんで、あっという間に3ヶ月。
通常であれば入会には現会員の推薦が必要だが、イベントに参加すればすぐさま会員になれるそう。”一度会ったら友達”方式か。
いや、でも、会場の受付で”休め”の姿勢で羊愛を大声で発表させるとか、羊の骨でマリンバを演奏させるとか、羊への愛を試す入会テストあるかもしれない。わりとビクビクしながら参加したのだが、結局、羊料理を食べて演芸を楽しんでいたら、手元には会員証があった。なにも試されなかった。ううむ、このインターネット全盛期、「足を運ぶ」ということが地味ながらも試練なのかもしれぬ。
……なんて思っていたけれど、けっこうなイニシエーションだったかもしれないなあ。3か月経った今こそ、振り返ってみたい。
入会までの試練の数々
1)見ず知らずの人に注意を受ける
会場は亀戸駅から徒歩10分弱のところにある中華料理店。
九龍城…刺客が来るタイプの建物だよな…ヌンチャク持ってきていないけれど、立ち向かえるだろうか…。
2階が受付とのことでおそるおそる階段を上っていくと
「オイ!」
背後から男の声!刺客!素手だけどウォアチャァァァ!(私はブルース・リーの声がこう聞こえる)
「足音がうるさいぞ!」
ピシャリと言い残し、去っていくオヤジ。こ、これは…かの有名な”言いたがり刺客”だ!くっ、やられた!素手でもヌンチャクでも太刀打ちできん!心に122のダメージ!
反省とともに抜き足差し足で階段を上りながら、一軒家の実家に住んでいた幼き日を思い出す。
「おまえの足音はうるさい」
「足音だけで誰が上ってきたかわかる」
家族中にそう言われていたな…もう30過ぎたいい大人だけど、初心に返ってがんばるよ…なんだかんだで見知らぬオヤジ、思い出させてくれてサンクスな…!
2)味のある会場
羊料理と落語を楽しむ会だとは聞いていたけれど、すんごく演芸仕様の会場だった。
この日の来場者は確か100人以上だったはず。
たくさんの円卓のなかから、一見さんが集う卓に案内された。席には中華料理らしく、白い平皿と王冠型に折られたクロス。
いや…王冠型っていうか…クロスがへたりすぎていて自立してない。イソギンチャクだ。
となりの席に至っては、クロスが本気でへたっていて布の端がほつれていたけど、これもイソギンチャク感と思えばむしろ味わい深かったな。
3)合言葉は
定刻になると、MCのマトン太郎氏(素敵なお名前だなあ)の挨拶に始まり、代表の菊池一弘氏のお話が。
羊肉のほとんどが輸入であることや、羊齧協会が発表している「羊指数」の存在もここで知ることができた。お召しになっている人民服は、羊齧協会幹部の皆さまのユニフォームだそう。カッコイイ。でもウール製だから暑いとおっしゃっていた。モンゴルで本場の羊肉料理を食べに行くときなどを想定しての仕様なのかな、さすがだな。
ご挨拶の最後は、”お決まり”だという合言葉を発声。
「羊串とクミンと香草に栄光あれ!」
オーディエンスも「栄光あれ!」と復唱。これは、たぎる。協会員になれた喜びがじわじわと湧いてくる。
でも私、協会の方からイベントの参加お礼メールをいただくまで、合言葉を
「羊主とクミンと香草に栄光あれ!」
だと思ってた。羊主。馬主の羊版。「ひつじのショーン」に出てくる瓶底メガネの親父とかハイジのおんじとか、そういう姿を想像しながら感謝してた。
羊”串”だったか、そっか…
4)落語?大道芸?
「落語界一の羊好き」と紹介されていた古今亭駿菊師匠の落語を見るのは初めて。羊が登場する古典落語があるのだろうか、それとも羊齧協会に絡めた新作落語なのか、とワクワク。
お披露目いただいたのはオーディエンス参加型の「羊クイズ漫談(?)」と、まさかまさかの南京玉すだれだった。初の生・南京玉すだれ。初・生・玉。
ゆったりしたリズムで手拍子をうちながら、完成後の姿にオオーっと声を挙げる。老いも若きも男も女も、見事心がひとつになる演芸である。先人はすごい。
5)食一覧
この日のラインナップ。ほぼ読めない。
前菜色々。
大拉皮は緑豆のでんぷんで出来たふるふるな食べ物。
ダーラーピー、と読む。うまい。糖質なので制限されている方はご注意を。
※引用元:大拉皮を食べよ〜 - アジアの食べ物 Vol.3
麻辣烤魚。読み方がわからない。麻辣な魚なんだろう。「烤」の字に怯えたけれど、日本人仕様のやさしい味付けにしてくれていたようで、舌が痺れることはなかった。
新疆大盘鸡はもっと読み方がわからない。写真も撮り損ねた。Google画像検索をしてみると、ジャガイモ・肉・ピーマンぽいもの、びろびろした平麺ぽいもの(干し豆腐か?)などを煮た料理が出てきた。もう、記憶にはない。
これ、羊蝎子(ヤンシエズ)だったかなあ。新疆大盘鸡だったかもしれない。どっちかです。
ところで、羊蝎子について紹介しているブログ記事を発見し、その説明に深く共感したので勝手ながら引用させていただきます。
実は「羊蝎子(ヤンシエズ)」とは、ヒツジの背骨を指します。背骨の形が、サソリに似ているということで、この名前があるようです。
料理としては、背骨をぶった切ったものを調味料などと一緒に煮込んだものです。
(中略)
ぐつぐつ煮込んだ背骨の肉を食べるのですが、正直なところ、あまり食べるところはありません。味は悪くはありませんが、食べにくいというのが率直な感想です。
個人的には、肉よりも、一緒に煮た野菜や豆腐の方がおいしいと思います。
野菜の方がおいしくなるパターン、あるよなァ…。
秘制烤羊排は羊のスペアリブステーキのことだった。手前にあるソースをつけていただく。酢味噌っぽい味だった気がするが、あまり覚えていない。
羊肉干豆腐。台湾料理店などに行くとよく目にする「干し豆腐」は細麺のような見た目をしているが、これはその太麺版。
中国の家庭料理「地三鮮」は、いも・ナス・ピーマンを炒めたもの。
青菜炒めのやさしさが沁みる。
水餃子は皮厚め。さすがに2ヶ月も経つと味を覚えていないなあ。でもおいしかったです。羊感は薄かったかも?説得力ないけど。
いや、そんななかでもぶっちぎりで記憶に残っている料理がある。それが
「葱餅」。
葱たっぷりで、中華料理らしい油っぽさがあり、だめよだめよと思っていてもつい手が伸びてしまうヤミツキな一品。
他のお料理よりも圧倒的に量が多かったのはなぜだったんだろう。おかげさまで、記憶に深く刻み込まれている。
どんどんお料理がなくなるなか、中央で積み重なりつづける葱餅。サトウの切り餅、じゃなくて怒涛の葱餅。
最後は杏仁豆腐だった。
6)私は何をしに来たんだっけ
いやあお腹いっぱいになりましたね!そうですね!と、羊齧協会の新会員同士で語らいあっていると、突如会場が暗転。
剣劇開演。
剣劇、すなわちチャンバラ劇。呆気にとられて話の内容をすっかり忘れてしまったけど、羊はまったく齧っていないストーリーだった(と思う)。
斬って斬って斬りまくり、決めポーズ。とにかく拍手をする、が、私はなぜいま剣劇を観ているのか。落語が楽しめるとは聞いていたが、なぜ、剣劇。
「びっくりするでしょう。これ、コースに組み込まれちゃってるんですよ」
と、近くにいらした会員の方が教えてくれた。強制的に披露。求められていようがいまいが、舞台の上で彼・園井風童(ふうどう)氏は輝いていた。愛称(自称)ふっくん、しかも浅香光代さんのお弟子さんだというではないか。スシ食いねェ!じゃなくて、アタシャねェ!のほうですね。
剣劇と軽快なトークは酔っ払いの我々を大いに盛り上げてくれた。ふっくん氏のフレンドリーな雰囲気は心地よく、会場を出る際に見送ってくれた彼の手を両手で握ってしまった。楽しい時間をありがとう。
※ふっくん公式WEBサイト:新星浅香流 - sinsei-asaka ページ!
私は本当に入会できたんだろうか
「イベントに参加すれば入会できる」と聞いていたけれど、イベント中に仕掛けられた数多のトラップに動じなくなってこそ、の会員認定なのではなかろうか。我が手元にある会員証を見つめながら、そんなことを思う。めちゃくちゃ動じてしまったなあ。仮会員扱いかもしれない。
動じすぎて大事なネタ帳を会場に忘れるという失態も演じたのだ。自宅最寄駅から急いで亀戸駅に引き返すという、ね…ああ、思い出しても冷や汗が背中に。初参加にして幹部の皆様を困らせた。「よかったね!」と口々に励ましてくださるその姿があたたかかった。さながら羊毛のごとし。
果たして私は入会できているのか。
その真偽を確かめるためにも、またイベントに参加しよう。その際は「何が起きても動じない」「家に帰るまでが羊齧協会」を胸に刻んでおかねば。
羊串とクミンと香草に栄光あれ!