(株)ビーコミの代表、加藤恭子さんが主催されている広報勉強会に参加してきました。
テーマは「オウンドメディア(自社メディア)」。
CMSプラットフォーム「Movable Type」を作っているシックス・アパート(株)広報、そして「Six Apartブログ」編集長でもある壽かおりさん、家電の企画・開発を行う(株)Cerevo広報・マーケティング活動全般をご担当されており、ブログ「カイ士伝」の著者でもある甲斐祐樹さんのお話を伺うことができました。
six apartブログの壽さんによる「オウンドメディア育成」実録
プロダクトマネージャーを務めていた壽さんが広報をご担当されるようになったのは2014年から。突如命じられた「広報業務」を始めるにあたり、オウンドメディア「Six Apartブログ」をテコ入れし、情報発信していこうと決意されたそうです。
テコ入れにあたり行ったことは3つ。
1)目標を定める
「Six Apartブログ」というメディアの方針を決めました。
「オウンドメディア運営者のためのメディアにする!」
「企業ブログ」というと、企業が発信したい情報てんこ盛りで、読者の「おもしろい」という気持ちそっちのけ、言わば「つまらない校長の朝礼のあいさつ」のようなイメージを持っていたので意外でした。
壽さんは「自社製品のアピールの場」ではなく「(株)シックス・アパートという企業名を背負って、インターネット上で情報発信する人を助ける存在になる」というスタンスをとったのです。
理由は、「インターネット上で情報発信する人」は自社のお客さんになる可能性が高いから。
そんな人の役に立ち、愛されるメディアになれば、こちらから仕掛けずとも読者(お客さん)側から自ずと声をかけてくれるようになる、ということは容易に想像できます。
そのためにも、「読者が知りたいこと」にフォーカスした記事を投稿しているとのことでした。
写真の撮り方、ワークスタイル、イベント運営ハウツーなど、幅広く有用な記事がめいっぱい!ついつい読み入ってしまいます。
2)体制を整えた
「Six Apartブログ」を継続的に運営するための体制づくりをしようにも、少数精鋭の同社、オウンドメディアだけにマンパワーを割くわけにはいきません。
なので、編集部は2名。
執筆者は社員のみなさんで、それをチェック・校正する役割を編集部のお二方が担っています。記事更新頻度はあえて「週1~2記事」程度に抑えているそうです。
このミニマム体制が、情報発信を続けられる秘訣であると思いました。毎日更新を掲げるのは立派なことですが、荷が重すぎて続かないのでは本末転倒です。
3)獲得したいものを決めた(KPI)
「Six Apartブログ」を通じて、具体的に何を得ることができたら成功なのか?3つのモノサシを決めました。
1)コメント
Twitter、Facebookでのシェアや、はてなブックマーク、ブログでの引用など、記事をきっかけにしたコメントがもらえるメディアになろう。
2)フォロワー
愛読者(≒お客様候補)を増やそう。
記事下にメルマガ登録フォームを設けたり、「メルマガ登録しませんか?」というポップアップが出てくるウィジェットを実装したりしています。
3)ドメイン外での露出
他メディアへの寄稿や、セミナーへの登壇といった機会をつくっていこう。
ニュースサイト「ハフィントンポスト」や「SmartNews」等と連携し、「いち情報発信主」として、「Six Apartブログ」の記事を配信しています。そうした集客力のあるメディアを通じて記事に出会ってもらうことで、新たなブログ読者獲得につながるのですね。
このモノサシ1)2)3)に適う記事を書いていかなければならないわけですが、記事の系統を大別すると、
- 顧客からの質問に答える系(SEO、イベント運営、写真撮影など)
- 社員の得意なこと/勉強中のネタを紹介系
- 過去ヒット記事の続き系
という3系統が多いとのことでした。
どの記事でも共通して留意されていることは「実際に真似できることをネタにすること」「読者を裏切らないこと」。
記事タイトルで「問い」を掲げ、本文中で必ず「答え」を出すこともポイントだとおっしゃっていました。問いを投げられっぱなしじゃ、読者はがっかりですから。
ひとつの記事を最大限活用する!
記事を書いたあとのアフターフォローも、10の箇条書きで見せていただきました。
とにかくとことん活用されています。ミニマム体制で波及力のあるメディアをつくるためには、こうした地道な努力が欠かせないのですね。
- 公式SNSでシェア
- 個人アカウントでコメント付きでシェア
- 個人で関連Facebookグループにシェア
- somewrite/トイロハ(ニュースサイト)に自動転載
- SmartNews掲載
- Six Apart公式メルマガで紹介
- ハフィントンポストに手動転載
- ハフィントンポスト掲載記事が、SmartNewsに掲載
- 数日後くらいに過去記事紹介としてシェア
- 関連する新記事を書いたときにリンクを貼る
その成果は・・・露出増加(各記事とも、数十~数百の「Like」が付き、サイトへの流入ドメインが増加)、リード獲得(メルマガ登録/フォロワー数が1ヶ月に50件以上増加)、そしてメディア取材多数!
予算ゼロのオウンドメディアでここまでの成果をあげられた、という事実を目の当たりにすると、オウンドメディアの立ち上げ、ちょっとチャレンジしたくなってきます。
記者&広報経験者 甲斐さんの「グローバルニッチを実現するCerevoの広報」
(株)Cerevoさんの社名は「Consumer Electronics(家電)をRevolution(革新)する」ことに由来します。
その名の通り、スマートフォンと連携できる、センサー内蔵型のスノボバインディングや、アニメ「サイコパス」に登場する銃「ドミネーター」など、革新的な家電製品を次々に発表しています。
※欲しい!欲しい!!
タイトルにもあった「グローバルニッチ」は社是で、特定のお客さんが「これだ!」と飛びつくような製品づくりをされているとのことでした。(1つの国で1万台売れるような製品ではなく、100か国で100台ずつ売れるような製品をつくりたい、という言葉がすてき!)
甲斐さんは、記者と広報をご経験されていることから、PRは大事であるということを強くおっしゃっていました。広報活動を「調理」に例え、「調理の悪さは素材を殺す」「素材に新たな良さを加えるのが調理」である、と。
ニッチな製品にもかかわらず注目を集められるのは、Cerevoさんが広報活動の重要性を念頭においているからです。甲斐さんは、Cerevoさんでの実例を挙げながら「PRとはなにか」をお話ししてくださいました。
PRとは
PR is Everything
いいものをつくっても、知られなければ意味がありません。好きの反対は無関心。知ってもらうための活動がPRです。
PR is Product
「PRがすべて」だから、製品をつくる時点で、PRのことを考えています。
ひと言で語れるキャッチコピー、話題になりうる商品スペック、妥当な価格、開発ストーリー。
特に「開発ストーリー」は、現場の方に聞くと「いや、まあ、なりゆきで・・・」といった回答になってしまったり、多くを聞き出せないケースが多いのではないかと思います(少なくとも、私はリリースを書くときに苦戦することがあります)。現場の方にはちょっと邪魔がられてしまうかもしれないけれど、こまめに進捗を把握し、広報担当であっても製品開発秘話が語れるのが理想だなあ。
PR is Planning
製品発表をする際は、お昼に記者発表をして、夜にユーザー体験会を行います。
生声に触れる場をつくり、製品改善に活かしていくのですね。
PR is Recruit
魅力的な製品をつくり、それを知ってもらう(広報する)。
その繰り返しを重ねれば、それは採用活動にもつながります。昨年は10名強だった社員数は、現在80名以上。でも、転職サイトは一切使っていないとのことでした。広報活動によって製品を知り、その製品の性能やコンセプトに共感して、応募なさるのでしょうね。
具体的な広報業務
行っている広報活動についてもお聞かせいただいたのですが、やはり大事なのは「コミュニケーション」なのだなと感じました。話を押し付けるのではなく、相手が聞きたいことを話す姿勢です。
ニュースリリース
一方的に送るものではありますが、「コミュニケーション」を意識すると少し変わってきます。
「ニュースリリースは書く能力以上に、読む能力が重要」とおっしゃっていました。その考え方に基づけば、リリースのタイトルは「一言で製品が伝わる、読みたくなる」ものであることが望ましい。宣伝色が強すぎてはだめです。読み手の視点になれば、煽られると興ざめする気持ちがわかります。
文章構成は5W1Hをわかりやすく書くことが大事ですが、淡々と特長を書き記すだけではなく「何が新しいのか」を具体的に明記し、それがどんな問題解決につながるのか、まで書いた方がよいです。ニュースバリューを高めるためには、数値目標など「データ」的なところもあるとよさそうです。
そして、あらかじめ「ご自由にお使いください」な各種素材(画像・映像など)を揃えて、一緒に送ってしまう。「記事書きたいので画像ください」「いいですよ」という1往復を節約できますから、双方にメリットがあります。
PRイベント
イベントを行うことができれば、新製品を使うとどれだけおもしろいことができるのかが具体的に伝えられます。
例えば、「スマホで自由に操作できるIoTミニ四駆をつくろう!」というワークショップなどを開催されたそうです。新製品の魅力はもちろんですが、「この会社はおもしろい!」「この会社の製品なら、いろんなことができそうだ!」といったワクワク感も伝わります。
とにかく「出会い」
甲斐さんの広報活動の事例を伺っていて感じたのはFace to Faceのコミュニケーションの大切さです。
PRイベント、展示イベントでの出会い。
プレスリリース片手に編集部に足を運ぶこと。
時間を共有し、お話しすることで、お互いの「ちょうど今、こんなことやっているんだよ!」が重なるんだなと感じました。遠くでのボールの投げ合いだと、「ちょうど今!」が引き出しにくいものです。
会社全体がオウンドメディア
これは、個人的にCerevoさんのお話を伺っていて思ったことです。
製品自体が独創的で、情報発信力たっぷり。製品がオウンドメディアです。代表の岩佐さんもインタビューに積極的に対応なさっていらっしゃるとのことでしたが、これもまた(最強の)オウンドメディア。
オウンドメディアに興味を持ちました
オウンドメディアには「細々と運営されている企業ブログ」的なイメージを持っていました。「社員にも読まれていないものなのでは・・・」くらいに思っていた。でもそれは、企業からの一方的なメッセージしか載っていないオウンドメディアばかりが目についていたからでした。
読者がおもしろいと思う情報を発信し、地道に育てると、第三者が運営する通常のメディアには持ちえない、独自の魅力をもったものになるんだということを知りました。
企業の名を背負うわけですから、個人ブログと同じような感覚で書くわけにはいきませんが、せっかく1年半以上このブログも運営してきたわけですし、その感覚を活かして挑戦してみたいとも思いました。
なにはともあれ、大事なのは「コミュニケーション」!相手を想う気持ちの大切さは、すべてに通じますね。気遣い力を磨かなければ!
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