季節はすっかり秋。気付けば11月も目前に迫っている。
暑くなく、寒くなく、空が澄んでいて木々が色づき、そして何より食べ物がおいしい。
実によい季節だ。
そんなこともあってか、毎週のようにおめでたい結婚式のお誘いが続いている。
幸せいっぱいの場にお招きいただけることは光栄である一方、日々のブログのとおり、色気のない毎日を過ごしている身としては、私は一体なにをやっているんだという虚しい気持ちや、いいなあ素敵だなあと羨む気持ちが湧きおこる場でもある。正直なところ。
祝福の気持ちでいっぱいになるべきなのに、自分のことばかり考えていることに気づき、恥じる。
こんなことだから独り身なんだわね、と至極納得である。
いや、それじゃいかんだろう。あんこパイ食ってる場合じゃないだろう。
こんなときは、一旦、現実逃避をするに限る。
そうでもしないと「発言小町」「Yahoo!知恵袋」「教えてgoo」の餌食になる。
過去の類似Q&Aを検索し始めたら最後だ。
イカスミバーガーでも食らいつつ、「食欲の秋!」なんて言いながら寝てしまいたい。
イカスミバーガーだけじゃない!マクドナルド新バーガーを「上から」目線でレポート - 言いたいことやまやまです
※銀座のマクドナルドではカマンベールチキンフィレオが終売しておりました
そんな切ない秋の夜長の友に選んだのは、今年2月に公開されたアニメーション映画『劇場版 TIGER & BUNNY -The Rising-』。
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映画というのは観たい観たいと思っているうちに、いつの間にか公開終了しているものである。本作もそうだった。
公開から半年以上経ってしまった今なれど、アメコミ調の美しい絵はハンバーガーにぴったりだし、アクションシーンでスカッと爽快気分が得られるに違いない。
観るなら今だろ!
■「タイバニ」の話題性
そう言いつつも、TVシリーズを「なんとなく」で観てしまっていたので、内容をすべて覚えているかは自信がなかった。
2011年に放送された痛快バディアクションアニメ『TIGER & BUNNY』、通称「タイバニ」。
劇場版の『~-The Rising-』では、TVシリーズ終了後のエピソードが描かれている。
劇場版はこれまで2本製作されており、第1弾の『~-The Beginning-』はTVシリーズ序盤のまとめを担っているとのこと。
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せっかくならそちらから観ればよかったのだが、面倒くさがりが災いし、勢いで『~-The Rising-』に手を付けてしまった。
身の丈に合わない飛び級をした学生の気分である。経験したことないけど。
自らの復習のためにも「タイバニ」についてご紹介してみたい。
特筆すべきは設定の斬新さ。
「プロダクトプレイスメント(劇中で企業ロゴ等を表示させる広告手法)」に試み、放送前に日経新聞の全面広告でスポンサーを募ったのだ。
(参考:ヒーローの胸や腕に企業ロゴ 劇中にも広告を出す新アニメ 日経トレンディネット)
架空の都市・シュテルンビルドを守るヒーロー8人のスーツや武器に対し、最終的に17社のロゴがプリントされることになった。
アクションシーンがある以上、企業ロゴを背負ったヒーローが殴られたり、敗れたりすることは避けられない。
ソフトバンクやバンダイ、吉野家など、この企画に手を挙げた企業幹部のチャレンジの姿勢には驚かされる。
そして細心の注意を払いながらのアニメーション制作は、さぞや大変なことだっただろうと思う。
プロダクトプレイスメントは、アニメの中でも重要な設定として活かされている。
「タイバニ」の世界では職業として「ヒーロー業」が存在しており、街を救う様子は『HERO TV』なる人気番組で中継されるのだ。
活躍すればするほどスポンサーロゴが露出し、企業イメージが上がっていく。
ピークを過ぎたベテランヒーローの「おじさん」を主人公に据え、「職業・ヒーロー(正社員)」ならではのサラリーマンの奮闘ぶりや、見ているだけで爽快になれる鮮やかなアクションシーンなど、普段アニメに触れる機会の少ない大人たちからも厚い支持を得たという。
■「~-The Rising-」のストーリーをざっくりと
そんな「タイバニ」は、TVシリーズのラストで、主人公のおじさんヒーロー、鏑木・T・虎徹(ヒーロー名:ワイルドタイガー)と、その相棒で、クールな新人のバーナビー・ブルックス Jr.(ヒーロー名は本名そのまま)の2人は引退を宣言していた(・・・という流れをすっかり忘れていた・・・)。
『~-The Rising-』は、その後ヒーローに復帰した2人の姿から始まる。
ただし出戻りの彼らに課されていたのは、軽犯罪の取り締まりを担う「2部リーグ」での活躍だった。
ヒーローといってもあくまで「2軍」。1部リーグにいたときのような待遇は得られない。
それでも、「これもまたヒーロー」と現実を受け入れようとする虎徹に対し、バーナビーは不満げだ。
そんな中、彼らが所属する企業に新たなオーナーが迎え入れられる。
カリスマ実業家として名高く、派手な演出が好きな新オーナーは、話題作りのために2人を1部リーグに復帰させるという。
再び虎徹と活躍できる・・・そんな想いで記者発表に臨むバーナビーだったが、そこで相棒として登場したのは、新ヒーローのライアン・ゴールドスミス。
虎徹の復帰を待ち望んでいた1部リーグのヒーローたちは、複雑な想いを抱えながらも、新バディヒーローのバーナビー&ライアンとともに、シュテルンビルドの街の伝説になぞらえた怪事件に挑んでいく。
■思いやり男、鏑木・T・虎徹にホロリ
人気作品の主人公というのはみな魅力的なものだが、本作のおじさん主人公・虎徹のその度合いといったら、数あるアニメーション作品のなかでも抜きん出ているのではないか。
年齢のせいで他のヒーローたちと互角の働きはできないし、電話中の適当な相槌を愛娘に見抜かれるし、なにかと情けないのだが、奥底に秘めている正義感と義理人情の厚さに、胸がじわりと温められる。
1部リーグに昇格する際も、バーナビーのいない場でオーナーから直接、虎徹は2部残留である旨を言い渡されていた。
会見までその事実を誰にも伝えていなかった虎徹。
バーナビーが2人での昇格を望んでいることをわかっていたからだ。
たとえ自分と共にではなくとも、有能な彼だけは1部に復帰させてやりたい。
しかし、そんな上司の心、部下知らず・・・。
会見後、バーナビーは苛立ちながら、どういうことだと虎徹に詰め寄る。
「2部の方が時間の都合もつくし、俺にはちょうどいいから」。
そう言ってバーナビーのさらなる活躍を願い、バディ解消を告げるおじさん。
そんな言い方、泣けるじゃないか・・・。
「ピークが過ぎて、体力が衰えて活躍の場が減ったヒーロー」という設定は、プロ野球のトライアウト密着ドキュメントで涙する私にはグッとくるものがある。
だが現実は厳しいもので、新オーナーは2部リーグを解体し、所属する全員をリストラしてしまう。
生き甲斐であったヒーロー業そのものを奪われた虎徹は、仕方なしにタクシードライバーを始めることに。
事件現場に遭遇し、駆けつけても、警備スタッフたちに行く手を阻まれる。
「あなたはもう、ヒーローじゃない!」と・・・。
ヒーローをクビになった自分。
活躍し続けるかつての同僚たち、そしてバーナビー。
現実世界の企業リストラに重ねれば、あまりに切なく、悔しいシチュエーションだ。
それでも彼は、『HERO TV』を通じて同僚ヒーローが重篤状態に陥ったと知れば、自分にできる限りを尽くすべく病院に駆けつける。
そんなおじさんの人情に、ホロリ。
誰かのために自分が動く、というのは彼にとって至極当然なことで、だからこそ恩着せがましくないし、計算もない。
誰かの「ありがとう」が素直に喜べるおじさん。
クライマックスでは、人手不足により一時的にヒーローとして復活するのだが、そこでも「これぞ虎徹」なシーンが。
敵を追う大事なときにもかかわらず、その道中で手に持っていた風船を手放してしまった見知らぬ男の子を見つけ、風船を取り返して手渡してやるのだ。
「誰かに必要とされたくてヒーローをやってるわけじゃない!
助けを求めている人がいたら手を差し伸べる。それだけだ!」
理想の上司像というのは様々あるだろうが、「有能で厳しい上司」だけでなく、「仕事がイマイチだけど憎めないおじさん」がいるのもよいものだと思う。
みんなが「もう、しょうがないなァ」と言いながら、その人を中心に一致団結するのもまた、大きな力ではないか。
※「あなたは叱らずに部下を動かすことができますか?」・・・
■思いやりホルモン「オキシトシン」
本作を観ながら、快楽を得られるホルモン「オキシトシン」の存在をふと思い出した。
ドーパミンやセロトニンなどの名は耳にしたことがある方も多いのではないだろうか。
ドーパミンは心を興奮させる動的な快をもたらすのに対し、セロトニンは何かに感動することで得られる落ち着きや眠気といった、静的な快をもたらすという。
ストレス軽減に有効なのは後者で、オキシトシンも同グループ。
しかし、「感動することで分泌される」受動的ホルモン・セロトニンとは少々異なり、誰かに親切にすることで分泌される、能動的ホルモンこそがオキシトシンなのだ。
(※参考:主治医が見つかる診療所:テレビ東京)
虎徹のオキシトシン分泌っぷりは、すごいんじゃなかろうか・・・。
オキシトシンによる快楽のツボを心得たら、誰に言われずとも自然と親切な行動、他者の幸福を願う行動を取れるようになるのかしらん。
知人・友人らの結婚式ラッシュを前に、自らの情けなさばかりに目が向いてしまっていたが、自分云々についてはエイッと目をつぶり、幸せいっぱいの場に身をうずめて思い切り祝福すると、オキシトシンを分泌して、結果的にハッピー気分になれるかもしれぬ。
■初見でも一気に楽しめる!
いろんなことを考えながら鑑賞した『劇場版 TIGER & BUNNY -The Rising-』だが、本作がテーマとして掲げているのは「Rising(それぞれの夜明け)」。
主要人物たちがそれぞれに思い悩み、自分を受け入れていくストーリーがさらりと描かれており、重さを感じることなくさわやかに楽しむことができる。
そのうちの1人、オネエヒーロー(ネイサン・シーモア)のジェンダー意識との葛藤についてはやや重点を置いて描かれている。
克服する際の仲間とのやり取りは、心震えるものがあった。
(それにしても、3月に公開された『アナ雪』より先に「ありのままで」を訴求していたとは)
そしてアクションシーンは「ぜひ劇場で観たかった」と思わされる鮮やかさ。
長さは140分ほどのようなのだが、もっと短い時間だったように感じる、エンタテインメント性豊かな作品だった。
レビューを見ると、TVシリーズからのファンにとっては賛否両論の出来のようだが、初見気分で鑑賞した私には、大いに楽しめる一作だった。
飽きさせないよう、どんどん進行していく展開にもてなされ、オキシトシンはさておき、ドーパミンは大量に分泌されたように思われる。
ちょっとは虎徹イズムにのっとって、日々の行動を改めてみようかな・・・。
目指せ、オキシトシン分泌人間。
そして友人知人たちへ・・・「おめでとう!、そして、おめでとう!」
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