京橋にある大正10年創業のやきとり専門店「伊勢廣」さん。年季が入った、それでいて威圧感を抱かせない一軒家のお店。
暖簾をくぐれば焼き場をぐるりとカウンター席が囲んでいる。テーブル席は少し。
サラリーマンたちが肩を寄せ合い、焼き鳥丼を食らう。ぎゅうぎゅうの店内、正直言って決して居心地はよくないはずなのに、みんなうれしそう。
焼き鳥3本が乗った丼が1,050円、焼き鳥5本丼だと1,850円。とても安いとは言えない「銀座のお店」だが、そのおいしさにはファンが多く、お店の外には行列ができている。
「コース」をお願いすれば昼でも予約可能
行列をよそに、予約していた名前を告げて2階の座敷席に上がった。
昼の時間帯に予約をするには、焼き鳥9本と鶏スープ、ミニサラダからなる3,850円のコースを注文する必要がある。
庶民の私が昼からそんなコースをいただけるはずがなく、この日はたまたま、上司に連れられお客様との会食で伺ったのだった(したがって、お料理の写真がありません)。
古い一軒家の2階、畳の座敷席。当然掘りごたつシステムは採択されていないので、ご注意されたし。ああ、ゆるいズボン愛好家でよかった。
案内された席に着くと、目の前には長方形の皿と、焼き鳥専用フォーク「チキナー」が置かれていた。
▲チキナー
いかにして使用するかが記された、ガイドリーフまであった。
※詳細はこちらから
チキナーというネーミング、そしてこのフォークの存在。伊勢廣さんが愛される老舗たるゆえんを垣間見た気がする。かわいい。
いざ、「昼のコース」スタート
焼き鳥が複数本入った、重そうな陶器のボウルを抱えた店員さん。
テーブルの傍らにしゃがみこんで、
「ささみです」
そう言いながら、わさびが添えられたおいしそうなささみを一人ひとりの皿に置いて去っていく。その姿、サスケのごとし。
期待あふれるひと口目を裏切らない、驚きのささみだった。この部位独特のパサつきを感じない、ジューシーさ。わさびも合う!
……なんて感動している間に次の店員さんが現れて、
「レバーです」。
うーん、このテンポで来たら追いつかない。
以前テレビでやっていた「「スシ食いねェ!」の曲に合わせて寿司を食う」というフードファイター企画が脳裏をよぎった。少し焦りながらレバーを味わったのだが、ここからはゆったり時間をおきながらの焼き鳥サーブ。ほっと安心。
ささみ、レバーに続いたのは、砂肝、葱巻き、団子(つくね)、ねぎま、合鴨、皮身、手羽先。これで全9本だ。タレか塩かは、お店の判断。だいたい半分ずつだったと思う。
お世辞抜きですべてがおいしかったのだが、やまま感動大賞は「砂肝」にプレゼントしたい。ゴリゴリした食感が一切なく、お肉の弾力を楽しむような1串だった。私のこれまでの「砂肝」観が崩れました。
アイデア賞は「葱巻き」に。聞きなれないこの一品、構造としてはこんなである。
▲画力がなさすぎて、ヌーブラとゲッソーの目みたいになっちゃった…
ネギがしっかりしていて、柔らかくて甘くて、食べ応えもある。薄くスライスされた鶏肉は、この串においては見事に脇役をつとめあげていた。さっぱりといただける串であった。
あと、純粋に「好きだ!」と思ったのは「団子」かなあ。つなぎが一切使われていないそうで、細かく砕かれた軟骨のような歯ごたえもあり、旨味を堪能できるだけでなく、多彩な食感も楽しめた。
でも、実はいちばん心動かされたのは「タレ」の味そのもの。
私はもともと、塩派。甘たるいタレは苦手なのだ。しかし伊勢廣さんのタレはさらっとしていてベタつかない。醤油感が強いとでも言おうか。粘り気がないので、串の具にまとわりつくことがない。あくまでも味の主役は鶏の旨味。タレは主役を光らせることに徹していた。かっこいいぞ、伊勢廣さんのタレ!
そんな充実したお昼のコースを、1時間半ほどかけてゆったりいただく贅沢。
ごはんつぶなど要らぬ。焼き鳥だけでお腹大満足。焼き鳥をとことん堪能するひとときだった。
願わくば、ひとりで
惜しむらくは、この贅沢な昼食が「ランチミーティング」だったことである。焼き鳥の写真がひとつもないのは、そうした事情ゆえ。
食べている間も、焼き鳥のおいしさだけを語るわけにはいかない。打合せと同時並行で絶品の焼き鳥を堪能しなくてはならないのだ。うおお、私のスペックだとデュアルタスクには対応できません!
ああ、30代にもなって食と会話の割り振りがうまくいかないとは情けない。ランチミーティング、やっぱり苦手。食べるか仕事かどっちかにしようぜ。
でもこのおいしさを知ることができたのは、やっぱり大収穫。財力を蓄えて、いつかひとりで…!って、いつになるかなあ。