新疆ウイグル自治区。
そこで日々食べられている「ウイグル料理」の東京唯一の専門店が初台にある。
新宿西口からは歩いて15分。
店の名を「シルクロード・タリム」という。
ウイグル自治区は中国の西に位置するエリアだが、そこに住まう「ウイグル民族」はトルコ系民族である。
・・・トルコ!
異国料理はいずれも好きだが、とりわけ愛しているのは中東料理。
トルコ料理イラン料理アラブ料理、どれも大好きだ。
中東料理といえば、連想されるのは華奢なインディカ米やナン、羊肉などなど。
ひと癖ある料理と粉モンのおいしさは、ハマると抜け出せない。
そんな中東の代表国ともいえるトルコ系の民族であるウイグルの人々が食べている料理とはどんなものなのだろうか。
豪雨のなか、訪問
初台のオペラシティやNTT社屋の近く、甲州街道沿いの道を歩いていると、この看板に出くわす。
この看板の案内に従い、路地に入ると
独特なムードの「シルクロード・タリム」がすぐに見つかる。
全面ガラス張りだ。
店に入ると、すぐに店長さんが流暢な日本語で出迎えてくれた。
日本には10年以上いらっしゃり、食を通じて日本とウイグルの交流の架け橋をつくりたいとの想いで、2010年にこの店をオープンしたという。
週半ばの平日にもかかわらず、小学校の教室くらいの大きさの店はほぼ満席だった。
※中東ムードの店内
ウイグルの一流高級ホテルでシェフを務めていた調理師が作る、現地料理の数々。
その独自の世界観はメニューにふんだんに盛り込まれていた。
一部をご紹介したい。
■これがウイグル料理だ!
まずは前菜的なメニューを。
やはり羊は欠かせないようである。
羊の舌と胃、とても気になる。
続いて、串焼き。
有名どころといえば羊の串焼き「シシカワプ」。
「カワプ(Kebab)」は「串焼き」「焼き鳥」といった訳し方をするようだ。
なるほど、なるほど、と思ってページをめくると
「カザン カワプ/日本語:鍋カワプ」
「ベレンゲ カワプ/日本語:ポテトカワプ」
「もうカワプの意味はわかったよね」と言わんばかりの翻訳放棄・・・!
串焼きではないし、ページは「炒め物」ジャンルなので「鍋炒め」「ジャガイモ炒め」か?そうなのか?
鍋で炒めるのはいいが、肉は何の肉なんだろう。
ポテト=ジャガイモの翻訳もこっそり諦められている・・・
まだまだ続く炒め物。
おお、炒め物は「コルミス」と言うらしい。
それにしても、
麻婆豆腐(Mabo Tofu)がワールドワイドな言葉になっているとは思わなんだ。
肉の画像が続いたが、実はウイグル料理は「粉モン」に強い。
うどんの種類は多種多様だし、餃子類がとにかく多い!
ページ上半分は「ミートパイ」「かぼちゃパイ」。
ウイグル語では「ゴシ ナン」「タリム カワ ナン」と記載されており、その名の通り「ナン」で具材を包んだような料理だ。
日本人が想像する「パイ」とは異なるのでご注意を。
ところで、日本人仕様のメニューとして「にしんのパイ」なんかもあると、盛り上がりそうである。
メニューの下半分は
「ゴシ マンタ(肉まん/Lamb Meat Bun)」
「サムサ(焼き立てまん/Uyghur Style Baked Bun)」
とあるが、「焼き立てまん」が謎である。
「肉まん」は英語を見れば「ああ、羊肉の肉まんね」とわかるのだが、「焼き立てまん」のヒントの少なさたるや、不安が募る。
たぶん、ものすごく翻訳しにくいのだ。
「Uyghur Style(ウイグル流)」という表現に逃げていると見た。
無類の肉まん好きとして放っておけず、店員さんに尋ねてみた。
「肉まんと、焼き立てまんは何が違うんですか」
「蒸しているか、焼いているかの違いですね」
「中身は?」
「どちらもお肉です」
・・・意外と小さな違いだった!
麺(うどん)のメニューがいろいろある中で、ごはんももちろん存在している。
「ポロ(ウイグル風ピラフ)」など、おいしそうだ。
今回も「ウイグル風」が指し示すものに興味があるが、何度も店員さんを呼ぶわけにいかないので、真相を知るのは頼んでからのお楽しみにしよう。
それ以上に気になるのは
下半分のメニューにおいて、またしても翻訳が放棄され気味な点である。
ヨーグルト、アイスクリームはわかる。そこは理解する。
英語と日本語が同じになっても仕方ない。
「ビフィズス菌の入った乳製品」などと表現するわけにもいくまい。
でも、米は!
米はがんばってほしかった・・・。
ところで、このお店はお酒というより紅茶の種類が豊富なので、井之頭五郎のような「異国料理もよろこんでたくさん食べる下戸」にピッタリ。
紅茶はいずれも大きな大きなポットに入っており、カップ4杯分は楽しめる。
ページ中ほど、「オグズ チャイ」においてまたしても翻訳放棄されている!
と思ったのだが、オグズというのは中央アジア北部にいた遊牧民族の名前らしく、それを翻訳しろというのは無茶な願いである。
揚げ足を取るような自らのいたずら心を反省したい。
メニュー最下部で存在感を主張する紅茶の写真にもご注目いただきつつ、ぜひ訪問の際は紅茶を飲んでみていただきたい。
キイチゴ紅茶を飲んだが、とてもよい香りで食後に合っていた。
■食べたもの
見たことのないメニューばかりで、どれも食べてみたくてウズウズする。
しかし女性2名で訪れたので、あまりたっぷり頼むわけにもいかない。残すのは最低だ。
(いや、ウイグルの文化ではどうなんだろうか。中国では「お残し」が美徳だし・・・うーん)
どれもこれも食べたい!そんなあなたに向けたコースメニューもあるのだが、どうしてもシシカパプなどの知っているメニューが含まれてしまうので、避けたい。
悩みに悩み、今回は厳選した3品を注文した。
1)コイティリ ハミセイ(羊の舌サラダ)
厚切りにされた牛タンときゅうりのサラダ、のような見た目なので、抵抗感を覚える人は少ないと思う。
羊独特の匂いも楽しみなポイントだったが、一切匂わず拍子抜け。
その分、最後までぺろりとおいしくいただけた。
名前は強烈だが、どなたでもお楽しみいただける一品と思われる。
2)コルマ チョップ(切り麺炒め)
うどん文化のウイグル料理ならでは!
細切れにしたうどんと肉、野菜を炒めた料理である。
日本のうどんだとグズグズに伸びてしまっていそうだが、ウイグルのうどんは強い弾力があり、固い。
最後まで伸びてしまうことなく、うどんの弾力が口の中でころころ広がった。
赤いけれども辛味はない。
中華料理にありそうな味付けだ。おいしい。ごはんが欲しくなる。
ごはんに乗せたら、もはや「そばめし」ならぬ「うどんめし」だ。
3)ゴシ ナン(ウイグル風ミートパイ)
「うどんめし」の誘惑にかられながらも、肉まん系炭水化物に興味があったため、炭水化物過多を避けるべく白米の注文は我慢した。
前述の「肉まん・焼き立てまん問題」が気になるところだが、完全なる初見メニューである「パイ」シリーズより、ミートパイを選択した。
モッチモチの生地に、羊肉が入っている。
これは、羊臭が強かった。
あの独特な臭みも大好物の一部なのでおいしくいただけたが、苦手な方は「かぼちゃパイ」を選択されるとよいだろう。
以上の3品、そしてキイチゴ紅茶でこの日の晩餐を終えたのであった。
■また行きたい!
もっともっと食べたい品があったのだが、胃の容量がついていけず無念である。
店内は終始おだやかに賑わっており、店員さんのホスピタリティもすばらしい。
ウイグル料理のなんたるかを垣間見た気がするし、「へえ、炒め物ってウイグル語で“コルミス”なんだ」といった発見も、異国料理店の楽しみのひとつ。
メニューにいろいろ突っ込んでしまったが、それは愛しさゆえとご理解いただけたら幸いだ。
ああ、カタコトの日本語ってなんてかわいいのだろう。
そう思うのなら私も海外の方に向けてがんばって英語を話せばよいのだが、なかなか、どうにも。
マスゾエ氏の支配下にいる以上は英語が話せないとまずいようなので、東京オリンピックに向けて勉強してみようか。
・・・ボディランゲージでしのぎたいので、身体のキレだけ維持していきたいと思います。
※わかりやすく、もっと正しいお店レポートはこちらからどうぞ