リクナビNEXTジャーナルさんに寄稿させていただいた。(編集に際し、たくさんのアドバイスをありがとうございました!)
銀座勤めの私にとってはかなり「選りすぐり」な3店をご紹介したのだが、そのうちの1店が、博品館劇場のなかにある南インド料理店「カーンケバブビリヤニ」さん。
原稿チェックをお願いするべく、ディナータイムにひとりで伺った。夜ごはんに南インド料理をいただく機会は比較的少ないのではないだろうか。なんだか、昼のイメージ。せっかくなので、どんなものがいただけたのかを記しておきたい。
おひとりさまでも安心!コース料理
そもそも、ディナータイムに訪れたのは「昼よりも空いているんじゃないだろうか」という予測による。その根拠は前述の「インドカレーって昼っぽい」というわけのわからない思い込みしかなく、店内に入るや否や、その予想はあっという間に覆されてしまった。
今月は12月なのだ。師匠も走る師走なのだ。忘年会の頃合いなのだ。10人はゆうに超えていると思われる大きな団体ひとつ、6~8人の小団体2つ、2~3人組のお客さんが数組。ちなみに混雑を避けるべく、会社を早めに出て18時半前にはお店に着いたのに、だ。
しかも男性客が多いのは非常に意外だった。男性はエスニック料理が苦手な方が多いイメージ。「なんでもいいよ」に対し「タイ料理がいいなー」と言うと顔をしかめられるイメージ。パクチー嫌い族(父がそう)。それは私の思い込みだったんだなあ。
そんななかでポツネンと。
メニューブックを開けば、サモサや煮込み料理など、気になるものがいろいろ。されどいかんせん、量が多そうである。こちとら一人だ。超常連客の自覚があったら、厚かましく「これ1個にしてくれない?」と交渉できたかもしれないが、あいにくそのレベルには達していなかった。
そこで見つけたのがコース料理コーナーである。明確に「お一人様用」と書かれていた。安心。本当はいろいろなお料理を冒険したかったので、コースを選ぶことは逃げであるようにも感じたが、致し方ない。いちばんお手頃価格だった3,000円ほどの「サヒファコース」をお願いしよう。食後のソフトドリンクがついているコースなので、アルコールをお願いしなくても罪悪感が湧かないのがいい。
メニューブックから顔を上げると、インド方面ご出身と思しき店員さんが。戸塚純貴くん風のくっきりとした目鼻立ちに、加藤諒くんと見まがうようなぱっつん前髪。まばゆいばかりの微笑みをたたえていた。ここは微笑みの国だったか?それはタイか…。
オーダーとともに繰り広げられたのが、「カーンケバブビリヤニ」名物(勝手にそう思っている)の「辛味問答」である。(リクナビNEXTジャーナルの記事でもこれだけは外せなくて長々と書いてしまいました…)
「辛さはどうしますか」と丁寧に訪ねてくれるのだが、ここで「マイルド」とか「辛くなくしてください」とか言うとアウトである。返事は「NO」なのだ。
あくまで質問は「”辛さ”レベルはどうしますか」なのであって、そこには「辛くない」という尺度は存在しない。
※LITTLE HOT or HOT or VERY HOT
わかっているのだけれどそのやり取りが好きで、ついつい「マイルドで」と答えてしまう私であるが、この日は忘年会まみれの店内にひとりで佇む緊張感もあいまって、「ノ・ノ・ノ・ノーマル」と慌てて答えてしまった。戸塚諒くん(さっきの店員さん)が遠くに行ってしまってから後悔したのは言わずもがなである。
ちなみに、「パクチーは食べられますか」という質問もあった。これは「好きです、大好き(と、アピールしたら大盛りにしてくれるんじゃないかというオバタリアン的な淡い期待)」と回答したのだが、今日いちばんの笑顔大賞をあげたいくらいのスマイルで、オーケー!と返してくれた。
サヒファコースの内容
まずは前菜的に、サラダとパパド(豆せんべい)。
※お店が落ち着いたタイミングで記事を預けてチェックしてもらおうと思うも、英語ができないのでGoogle翻訳をたたきながらサラダをいただいた。(結論から言うと、この件に対応してくれたオーナーさんは、逆立ちしたくなるほど日本語が堪能だった。このあと私は非常に恥ずかしい想いをすることになるのだ、と思うと写真を見つめられない)
タンドーリチキン、ラムシッカバブ、フィッシュティカ。フィッシュはマグロです。
この、真ん中の緑色ソースがよかった!ミントのようなさわやかな風味がありつつ、辛い。チキン、ラム、フィッシュを食べ終えてなお、このソースだけそっと手元に残しておいたものね…。
浅草のケーララ料理店「サウスパーク」さんでドーサセットと一緒にいただいた「チャツネ」の一種だろうか。
その後は、メインディッシュの3種類のインドカレー。
バターチキン。全く辛くないので安心。
想像していた色と異なるキーマカレー。パクチーやホウレン草などが入っているんだろうか。バターチキンの「まったり」とは真逆のさわやか辛味系。
こちらはメニューブックによれば「ニルギリ ベジタブル カリ コルマ(ミントとコリアンダーを使ったココナッツベースの野菜カレー)」なるもの。バターチキンが「まったり」ならば、こちらは「もったり」。どう違うのと言われると、ちょっと困る(語彙貧困)。ごろごろと入った茄子やインゲンが非常においしく、カレーのほんわりとした甘みに癒される。
それにしても、茄子という食材には改めて感心させられる。きゅうりクラスで栄養がないらしいという話もあるが、おいしさにおける懐の深さは目を見張るものがある。いや、ほんとウマイなニルギリベジタブルカリコルマ…。
ちなみにコルマとは
ヨーグルト、ナッツまたは種のピューレ、そしてクリームやココナッツでコクと深みがプラスされたカレーの総称です。
※出典:パタックス コルマカレーペースト – Patak's
とのこと。カレー大国インドの「カレー名称分類表」があったらいいのになあと思う。
ところで、これと一緒にいただくようにと持ってきてもらった「パラタ」をいただいたのは初めてだった。パンでいうところのクロワッサン。デニッシュ。ジワリとバターを感じる薄焼きパン。
パラタはチャパティの生地を使って作ります。チャパティーの生地ににギー(ghee:インド周辺諸国特有のすましバター)を加え、何回か折りたたんでパイのように層を作り、それを焼きます。
これにカレーをつけていただくとは、なかなかヘヴィな組み合わせ。インド人の摂取カロリーはどうなっているんだろうか。現地ではこんなにリッチな組み合わせはしないんだろうなあ。
カレーの流儀
悩まされたのはカレーの食べ方についてである。
私にとっておいしいカレーは「飲む」ものであり、おいしいナンとかパンとかパラタとかは基本的に「それ単品で味わいたい」もの。2者がフュージョンするのは最後の最後、お皿に残った、スプーンですくいきれなかったカレーをナンなどを以て拭うときだ。
※カレー皿がほぼ空の状態。ここからがスタートだ
この習性と、スタッフさんたちのホスピタリティが優れすぎている「カーンケバブビリヤニ」の相性は少し悪かった。賑わう店内の様子、どんなひとが来ているのかなあとか、みんなどんなものを頼んでいるんだろうなあとか、前述の戸塚諒くんがんばっているかなあとか、とにかくいろいろ気になってきょろきょろ…したかったのだ、したかったのだ!
しかし、下記3条件が揃ったらどうなってしまうだろうか。
1)カレーがほぼ完食状態
2)パラタがたっぷり残っている
3)そんな状態の客がきょろきょろしている
「辛さはどうですか?」
そんな言葉とともに、スタッフさんがこちらに来てくれてしまう。
「おいしいです。この、茄子のカレーはとりわけ、すさまじく、本当においしいです」
この、って言ったって皿は空っぽなのである。
「ちょっとだけ、持ってきますね」
お代わり制度が採用されていないお店にもかかわらず、このサービス…!恵みに感謝しつつも罪悪感まみれである。再びこのようなやり取りを発生させてはなるまい。
それ以降はただ2点、パラタとカレーを見つめることにした。見つめすぎて新たな何かが浮かび上がって見える(マジカルアイ的な)んじゃないかというくらい、視線をぶらさなかった。そのせいかあっという間に完食してしまったので、集中力ってすごいなあと思う。
それにしても、食べ終えるのが惜しくなるくらい、おいしかった。
チャーミングな店員さんたち
おいしい南インド料理がいただけるだけで幸せなのだが、インド方面ご出身と思われる店員さん全員が働き者でかわいらしく、スパイスの力もあいまって心身がほっこりする。落ち込んだときに訪問し、元気を分けてもらうのもおすすめ。
私が訪れたディナータイムは、冒頭にも記した通り、お店は忘年会と思しき会食で大盛況であった。「飲み放題あるある」だが、あっちこっちで「スイマセーン!」の声。
メニューも解説せねばならないし、サーブする最中に「あのー、春巻きみたいなやつありますよね、インド料理。なんですっけ」みたいな質問にも対応しなければならない。
そして私のようなのもいるのだが、ちょっとしたタイミングで「これは熱いうちがおいしいですよ」などなどと話しかけてくれてうれしい。ちなみに春巻きの問いの回答は「ドーサ」でありました。
お昼はどうしてもあわただしくなるものなので、ゆっくりとお料理や雰囲気を堪能したいときは、夜にこうしてぷらっと来るのも、いいなあ。忘年会・新年会シーズンが落ち着いたら、また伺ってみよう。