前回「ぐいぐいストロングスタイルの宣伝活動」について書きました。今日はそのうちのひとつ「通信講座」のご紹介です。
1年ほど前、妊娠中ということもあり「自分が学びたいことに励み、その様子をブログでレポートし、アフィリエイト記事としてまとめてみたい」と思っていろいろな通信講座を探したのです。
それで目に留まったのが「筆ペン講座」でした。
周囲の結婚ラッシュは落ち着いたものの、冠婚葬祭に紐づく「筆ペン記名」のシーンは死ぬまで一生、遭遇し続けます。これがきれいな字だとなかなか誇らしくていいよね、と思ったのです。
まずは公式サイトから資料請求。すぐに厚めの封書が届きました。
開けると、美しい筆ペン文字でしたためられた縦書きお手紙(コピー)が入っているではありませんか。そのページ数、なんと「3」です。見ず知らずの私に、なにをそこまで語ることがありましょうか。
手紙は「あなた様よりお申込みのございました資料をお送りさせていただきました」から始まるのですが、第2段落で私は「なにか」を悟りました。
該当箇所をそのまま引用します。
本日、このご案内を受け取られたあなた様は、日本の伝統文化である筆文字で、ご自身の切々たる心情、温かい心持ちを相手の方に直接伝えることができる、願ってもない機会を得られたことになります。
私が上司なら、この熱烈文章にまるまる取り消し線を上書きし、そっと赤文字で「トルツメ」と書き添えることでしょう。この文章から「ご自身の切々たる心情」も「温かい心持ち」も伝わってこないのですから、妥当な判断だと思います。
手紙はさらに
「筆ペンがいかに画期的な筆記具であるか」
「筆文字を書くことで心にゆとりが生まれるためストレス社会にぴったり」
「冠婚葬祭シーンで役立つ知識も学べる」
「どれだけこの教材がすばらしいか」
「入会するとお得な特典がもらえるから早く申し込むべし」
と続き、読み疲れきったところでフィニッシュです。
いまは伸長法広告(背が伸びる! というやつです)がまかり通った昭和時代ではありません。令和です。「筆文字を書くと心にゆとりができる」あたり、「要エビデンス」という赤文字が入って然るべきではありませんか!
3ページにわたってみっちりと書かれた文章はまったくもって心に響かず、「温かい心持ちとはなんなのだろう」と考えるに至ってしまいました。哲学的な手紙だったようです。
そんな熱烈レターには、申込み用のハガキ、価格表に加え、なにやら厚手のカラーの紙が同封されていました。
なぜ厚手なのかって、B2サイズの両面印刷の紙が折りたたまれていたからです。しかも縦長。新聞だって広げて読むときは横長になるというのに!
そんなB2サイズのカラー資料、見出しの「黄色バックに赤文字(明朝体)」というハイセンスな配色も光っています。亡き又吉イエス先生の選挙ポスターでこの配色を見たような記憶があります。人の視覚にぐいぐい来るデザインです。
ぐいぐいとアピールされた結果、すっかり目が疲れてしまって本文を読むに至りませんでした。いま久々に、保存しておいたB2サイズ資料を取り出したのですが、広げるだけで心身の力を奪われてしまいました。
とまあ、なかなかに癖のある資料でしたが、きれいな筆ペン文字が習得できればそれでよし。体験レポート記事をブログに書き、アフィリエイト収益が出ればオールOK!
……だったのですが、上記の私の心のうちが見透かされたのか、アフィリエイト契約審査に落ちてしまいました。
そうなれば、言葉を選ばずに書けば「講座は私にとって用無し」です。すっかり筆ペン講座のことなど忘れ、日常生活に戻っていったのでした。
そんなある日、郵便ポストに届いた封書を取り出すと「見覚えのある顔」がありました。
……ふ、筆ペン講座のキャンペーンガール!!
B2サイズ資料にデカデカと顔が印刷されていたあの女性が、封筒に印刷されている!
封筒には表裏にびっしりと文字が綴られており(中の資料にではなく、”封筒に”です)、フォントも色も統一感がなく、見ているだけで胸騒ぎがします。
極めつけは太く大きな「緊急特別情報 ~これがあなた様への最後のご案内となります!~」の文字。もはや「あなた様」という呼称に怖気づくようになってきました。
「一度は「美しい筆ぺん文字を身につけたい」と思われたあなた様に限って、最後のご案内をお届けいたします」
「まずは、中をご覧ください。このご案内をもって、4大特典つき入会受付を締め切らせていただきます!」
「4大特典つき入会は有効期限つきです。急ぎ内容をご確認ください。」
「これが最後のチャンスです!!」
「お急ぎください!」
「今、スグ中をご覧ください!」
これらすべて、「封筒」に書かれている文字の一部です。
確かに「切々たる心情」が伝わってきます。しかし伝わった結果、こちらの感情メーターは「恐怖」に振り切れました。怖い。開けられない。
そんな理由で昨年から開けずにとっておいたこの封書、いま、まさにいま、開けました。
内容物は1通目と同じく、熱烈レター、申込みハガキ、価格表、B2両面カラー資料の4点セットです。
しかしレターの内容はさらにスパイシーになっていました。一部を引用します。
本日、急送便であなた様にご案内を差し上げましたのは、ほかでもありません。現在、多くの方から本講座の特典つき受講申し込みをいただいております。あまりにも大勢の受講生となりますと、きめ細かな個別指導ができかねる恐れがありますので、私どもでは心ならずとも受講生募集を締め切らせていただくことになりました。そこで美しい筆ぺん文字の習得に強い関心をお持ちのあなた様に、この事情を一日も早く連絡せずにはいられなかったのです。
今はパソコンの文字が氾濫、全盛です。しかしその一方で、手書きの筆文字は美しく、温もりがあるという理由で見直され、むしろ価値があると認められています。
相変わらずの「要エビデンス」っぷりと、温もりを感じない文面。これがやはり3ページも続くのです。
今回は受講生の声を伝えてくれる内容になっていましたが、恐怖心が勝ってしまい、「ヨーシ、私も申し込んじゃおうっと!」という心境には微塵もならないのでした。
そうこうしているうちに3通目が届きます。
この封筒もパンチ力抜群、ピンク背景に黒縁の赤文字で「特別追加募集決定!」と大きく書かれており、さらにその文字に重ねて、白縁の黒文字で「特別優待生に選ばれたあなた様だけへのご案内」とあります。
出た、「あなた様」!!! 私のみならず、妊娠中の腹のなかもビクリと動いた気がしました。
人知れず私、「特別優待生」になっていたとは。どのあたりが評価されたのでしょうか。私のこじらせた面倒くさい性格が、団体幹部の目に留まったのかもしれません。
封筒に刻まれた「お得な特典つきのこの機会にあなた様もぜひ筆ペン技能を習得してください!」という宣伝文、本来「機会」とすべきところがばっちり「機械」になっていました。
特別優待生という設定を生み出すパワーを校正に回したほうがいいんじゃないかと、特別優待生的には思います。あとこの際だから言わせてもらいますが、「筆ペン」なのか「筆ぺん」なのか、統一したほうがよいです。
これまた恐怖で開封できなかったので、いま初めて封筒を開けました。内容は、熱烈レター、申込みハガキ、価格表、B3両面カラー資料です。
2通目までとの違いは、レター「3ページ→2ページ」、カラー資料「B2→B3」のボリュームダウンでした。
手紙を読むと、謎だった「特別優待生」制度の説明があります。
今回、特別追加募集することとなりました「特別優待会員」は、指導担当の先生方が事務局と協議した結果、受講を望む多くの方々の声にお応えするために急遽決定されたものです。(略)筆ぺん文字の習得に強い関心をおもちの方、美しい文字を書きたいと願う方を選び、ご案内させていただいた訳です。
志望動機のひとつも伝えていないのですが、私の心のうちをお見通しだったようです。筆ペン美文字を制すると読心術も制するのか!
そしてパソコン文字全盛のいま、「手書きの筆文字の温もり、やさしさ、美しさが見直され日本文化として大切にしようとする機運も高まっています」とのこと。この切り口は初志貫徹という感じがします。
さすがに読み疲れ、書き疲れてきました。
先方もそのようで、あいも変わらず忘れたころに「おたより」が届いたものの、封書ではなく圧着ハガキでした。
それでも宛名面に目一杯の文字が刻まれており、大きく「速報!! 優待選抜会員緊急募集決定!」とあります。
特別優待生と優待選抜会員の違い、それは「特別奨励金1万円がもらえるか否か」です。これまでのご案内を無視し続けた結果、1万円をくれるというのです。
それでも無視を決めて2か月ほどたったころ、ここにいるよとそっとささやきかけるかのような、慎ましやかな圧着はがきが届きました。全体的にデザインも控えめ。「特別奨励金10,000円つきで受講できる最後のご案内です!」とのことでした。
さすがにもう、怖がったり面白がったりする気力も失せました。私の心身の力を根こそぎ持っていかれた気がします。
わずかに残った気力で事務局に電話をかけ、DM送付停止をお願いしたのでした。あまりにもあっさり、かつ自然な敬語で受け入れられたので拍子抜けです。もっと慇懃無礼に、クドく説得されるかと思ったのに。
この宣伝スタイルで受講者が増えると思っているのか、非常に疑問です。何通も諦めずにDMを送り続けていれば、折れて入会してくれる人が多いのでしょうか。
広告会社さんは筆ペン講座さんに営業をかけてみてもよいかもしれません。
今日のやままーケット「筆文字スタンプ」
きれいな筆文字を書きたいと思ったのは、冠婚葬祭時に恥ずかしい想いをしたくないから。たったそれだけの理由です。
それなら「きれいな筆文字で名前を書いてくれるもの」があれば解決します。
というわけで、シヤチハタの筆文字スタンプを買いました。まずは本体を購入して、同封されているハガキか専用サイトでスタンプ化してほしい文字をオーダー。
1週間くらいで文字が届きます。それを本体にセットすれば、300回くらい使えます。1,500円~2,000円くらい。筆ペン講座は3万円くらいですから、スタンプで十分でした。
苗字だけのもの、夫との連名のもの、計2種の筆文字スタンプを持っています。便利です。