沖縄料理の名物のひとつに山羊料理がある。
滋養のある食べ物として昔から愛され続けており、祝い事の場などでも重宝されるらしい。
煮る、焼くのみならず、生のままいただく「山羊刺し」もポピュラーだとか。
その独特な香りゆえ、現地の方でも不得手とする声は少なくないようだが、せっかく沖縄に行くなら、その山羊文化を味わってみたい。
昭和46年創業「さかえ」さんに行く
「沖縄 山羊料理」とGoogle検索をすると、いちばんに出てくるのが「山羊料理さかえ」さんだった。場所は那覇市牧志駅近く。有名な市場のあるところか。
「食べログ」でも「Retty」でも大絶賛の嵐、新書「明日の広告」やグルメエッセイで著名な佐藤尚之(さとなお)さんもお気に入りのお店で、吉田類さんの「酒場放浪記」にも登場済。
臭くて癖があるとされる肉にもかかわらず、こちらでいただく山羊肉は新鮮でとても食べやすいとされている。
人気の秘密はそれだけではなく、お店を切り盛りする「ねーねー」の温かいお人柄にある様子。
カウンター席中心の小さなお店は常連客で賑わい、平日でも混み合っているというが、なんとしてでも行かなければ気が済まない。
予約をしたかったところだが、いろいろなレビュー記事を拝読していると、どうも予約不可のようだった。
厚かましく電話してみればよかったのだが、「個人で経営されているお店だし、きっとお忙しいだろうし、お一人で切り盛りしているっぽいし、私ごときの電話でご迷惑をおかけするわけにはいかない・・・」
と躊躇してしまい、予約はせず、
14時50分に現地イン。
開店時間15時を待ち受けることにしたのだった。
はじまりは親子ゲンカから
15時を回ったところで、古めかしいお店の戸が開いた。
時は来た!
喜び勇んで、戸を開けたおばあちゃんの元に駆け寄ると、私のうしろの方から「待って、待って」の声。
振り返ると、両手に買い出し食材をたっぷり抱えた女将さんらしき方の姿が。
この方が噂の「ねーねー」か!
「ごめんね、すぐ準備するからもうちょっとだけ待っててね」
すまなそうな声のねーねー。
「いや、こちらこそすみません、大丈夫で・・・」
「いいじゃない入ってもらって!!」
謝り合う我々の声を遮る大きな声。その主は、戸を開けたおばあちゃんだった。
「いいのよ、入ってもらって」とニッコリ。
「お母さんだめよ、準備がまだできてないでしょ!」
お母さんのウェルカム態勢と、それを制するねーねーのやりとりが2〜3往復し、最終的にはねーねーが力ずくでお母さんを店内に引き込んだのだった。
「ごめんね!すぐ準備するからね!」
申し訳なさそうな声を私たちに残し、ねーねーがお店に入り戸が再び閉められた途端、母娘ゲンカと思しき声が聞こえてきた。
平日、15時、絶好のお天気に恵まれた静かな商店街に響く口喧嘩の声・・・
の、のどかだなあ。
パリーン!と皿の割れる音がしたような気が、する。(気がしただけ)
神よ、私の罪深さをお許しくださいますか。
空に向かって懺悔していると、
「おまたせ!どうぞー!」
けろりとした笑顔のねーねーに出迎えられたのだった。
「ほんと、ごめんねえ」
年季の入った、カウンター数席と小上がりで構成された店内だった。
「いや、こちらこそ急かしちゃって・・・すみませんでした」
カウンターに腰掛けながらそう言うと、
「すみませんなんてことはない!来てくれてありがとう!」
そう制された。
入店してものの数分で、ぐっと心が鷲掴みにされてしまう。
「さ、何にしようか!」
カウンターのなかからにこにことオーダーを聞いてくれるねーねー。
人気だという泡盛をお願いした。ヤンバルクイナだったかな。
厨房にずらっと並ぶ琉球グラスは、好きなものを選ばせてもらえる。
そういえば、お母さんはどうしたんだろう。
きょろきょろしていると、お店の奥からお皿を持ったお母さんが登場。
そこに盛られていたのは立派な茹で豚。
「さっきはごめんなさいね、これ、よかったら食べてね。サービス」
恥ずかしそうにそう言いながら、テーブルにそっと置いてくれた豚のおいしそうなこと。
追いかけるように、「これも食べて!」とねーねーが盛ってくれた生野菜。
どうしよう、大変に立派なお通しになってしまった。
振り向けばこの光景。
最高だ。お酒もお料理もこの時間も、じっくり味わわなければもったいない。
沖縄料理というより「さかえ料理」
目の前に並ぶサービスおつまみで十分な気もするが、やっぱり山羊を食べなければ。
残念ながらまだお肉屋さんから届いていないということで、ねーねーおすすめの「焼きヘチマ」をいただきながら待つことにした。
「ウチ以外では食べられないから!」「おいしいから!」と自信満々に作ってくれた焼きヘチマが、こちら。
ヘチマといえば、乾燥させて身体を洗う用途くらいしか思いつかなかったけれど、焼くとこうなるのか・・・。
トロッとした熱々のヘチマをハフハフ言いながらいただいた。
上顎が火傷してしまいそう。
醤油と生姜のシンプルな味付けがぴったりだ。
十分に堪能しているのだけど、ついつい、じーまーみ豆腐もいただいてしまった。
ぷるぷる、うまい。
沖縄料理最高!
と思っているそばから、
「最近気に入ってドン・キホーテで買ってきたの」とプレゼントされたうまい棒(納豆味)。
「ちゃんとネバネバするんだから、すごいよねえ」
やおきんさんが泣いて喜ぶんじゃないかというくらい、ねーねー大絶賛。
久々に頬張った納豆うまい棒は妙においしかった。
そうこうしているうちにお肉屋さんが来て、お待ちかねの「山羊刺し」が登場。
※うまい棒を皿に盛る必要はあったのだろうか
山羊刺し、けっこう分厚く切るんだなあ。
お肉の刺身というと、薄くスライスするイメージだったんだけど。
口に入れてから飲み込むまでに、それなりの咀嚼数が必要な噛みごたえ。
臭みがあったら我慢ならないはずだが、全然気にならない。
かといって無臭ということもなく、かすかな個性が感じられるからクセになる。
これはうまいぞ!
臭い山羊肉で作る「山羊鍋」は地獄の沙汰であると聞いたことがあるが、さかえさんだったら絶対おいしい。
しばらくするとお客さんがいらっしゃって(なんと静岡から!なのに常連さん)、ねーねーは島どうふの準備にかかった。
※喫茶アメリカンの食パンかと思った
※ブログで大きさ紹介して!とのことで比較用うまい棒も用意してくれた
切り落としたパンの耳ならぬ「豆腐の耳」をわけていただいたのだけど、水分の抜けたぎっしりとした食感は、豆腐ではなく、あくまでも「島どうふ」という食べ物にほかならない。
お別れが切なくて
食べて、とひたすら渡されるうまい棒(コーンポタージュ味)を頬張りながら、山羊刺しもいただき、泡盛も飲んで、常連さんも交えて無駄話。
ねーねーは歌うように「おいしいねえ、うれしいねえ」と言っていた。
おいしい料理はいろんなところで食べられる。
でも、うれしくなって、幸せになれる場所は限られている。
この日さかえさんに集った全員、笑顔がこぼれていた。
その日は東京に帰る日で、あっという間に搭乗時刻が迫ってしまった。
山羊料理、もっといろいろ食べてみたかったな。
でもお腹がいっぱいになって、思い出が無に帰すような事態になることは避けなければ。
おどろくほど良心的な価格のお会計を済ませ、お店を出ると、ねーねーが「帰りに食べて!」とさんぴん茶とうまい棒(いっぱい)を手渡してくれた。
ものの2時間くらいだったのに、なんだか離れがたくてキュンとしてしまう。
他の山羊料理をいただくためにも、ねーねーに、お母さんに会うために、また沖縄に来よう。
そりゃ、静岡からちょくちょく来てしまう気持ちもわかるよ。
おいしくて幸せな時間をごちそうさまでした。
お店情報と今回の反省
開店時間前の「入り待ち」はもうやめよう。