一部ご婦人たちはスイーツに「甘すぎない」という褒め言葉を連発しがち、という記事を書いたことがあるのだが、またおもしろい場面に遭遇した。
お肉がおいしいビストロのイベントに伺ったときのこと。
目玉料理のひとつが「サルシッチャ(ソーセージ)」だった。ローズマリーなどの香草で燻しているのがポイントで、客席でフタを開け、テレビ東京の演歌番組が恋しくなるようなスモークとともにその姿を現す流れになっていた。
このモクモクが、それはもういい香り!香草と肉汁のまじりあった香りだけで平皿に乗ったライスを2皿は平らげられそう。お椀に盛ったごはんじゃなくて、「平皿に乗ったライス希望」。箸ではなくフォークで食べたい。
客席中が色めきだち、いい匂い、おなかがすいた、シェフかっこいい、など口々に賛美の言葉が飛び出した。照れくさかったので私は「わー、いいにおい」というバカみたいな感想しか口にしなかったけれど、心のなかでは平皿ライス!平皿ライス!を連呼していた。(平皿ライスと平田オリザって空目するな、と思って書いてみたらあんまり似ていなかった)
隣のテーブルにいらしていたご婦人方も興奮されており、最初は「いい香り」くらいだったのに、褒め言葉は最終的には
「この香りの香水がほしい」
という、なんとも色香漂う表現に至っていた。
「炎上」のパワーはプラス方向にも持って行けるはず
「この香りの香水がほしい」という発言に対し、グループのご婦人方はツッコむでもなく苦笑するでもなく「ほんとねえ」「そうねえ」といった反応。これが祭りの力だと思った。
そんな気持ちのまま食べたサルシッチャは、さぞやおいしかったろう。シラケた気持ちで食べれば食事はまずくなるし、楽しく食べればうまくなる。食事の最終的なスパイスは「気持ち」なのだろう。メイドカフェの「おいしくな~れ」はあながち間違いではない気がする。
ところで「炎上」とはネガティブな反応にみんなが乗っかり雪だるま式に膨れ上がっていく現象だが、上記のマダム・サルシッチャ事例を機に、ポジティブな気持ちも雪だるま式に大きくさせることができるのだなと思った。
たとえば現在大ヒット上映中のアニメ映画「KING OF PRISM -PRIDE the HERO-」。アイドルの男の子たちを描いた作品であるが、2016年に上映された同作の1作目にあたる「KING OF PRISM by PrettyRhythm」でサイリウム振り放題、黄色い声出したい放題の「応援上映」というスタイルを取り入れて話題になったことは記憶に新しい。
私も1作目は3回鑑賞したが、映画本編のみならず、始まるまでのCMや予告編に至るまで、観客一同が「応援できるポイント」を探し出しては発声する姿に感動を覚えたものである(セブンイレブンのおでんのCMに対し、「おいしそう!」など)。
炎上はどこか「祭り」の要素も帯びており、燃やすのが楽しくなってしまう人たちがいる。炎上のもととなる話題を議論することではなく、燃やしてキャンプファイヤーすることが目的ならば、「ホメ」でワッショイできたらいいのになあ……なんて思ったけれど、眉をひそめたくなるようなことだから注目され、いじりたくなり、ニュースになるわけで、ポジティブなことってスポーツやノーベル賞といった限られた事案でしかニュースになりにくいよなあ……。
さて、話は戻ってサルシッチャ。他人の外見をとやかく言ってはいけない、が、それなりにふくよかなご婦人だったため、「サルシッチャの香りの香水がほしい」発言に対し、「どうしよう、ちょっとシャレにならないかもしれないぞ…」とひとりソワソワ。
私が口にした「わー、いいにおい」なんて言葉よりもよっぽど「本当にいい香りだったんだな」ということが伝わる素敵な表現なのに、そうやって粗探しをする自分が嫌になる。「ホメでワッショイ」なんて私には程遠い話なのか……善き人間になりたい。
とりあえず、今日はジムに行ってきます。