落語初心者から古参ファンまで、誰でも楽しめる定期落語会「渋谷らくご」。
拙い筆力・落語理解力で恐縮ながら、先月(12月)、笑福亭羽光さん、入船亭扇里師匠、浪曲の玉川太福さん、橘家圓太郎師匠が出演される回にお邪魔した際の感想をまとめてみた。
「落語って何?」「寄席行ったけど寝ちゃった」状態だった私が、ここ半年ほど渋谷らくごに通い始めてからというもの、回を増すごとに落語と噺家さんが好きになっていることを実感している。
もっと知りたいという想いも増しているので、「お薬手帳」よろしく、どんな噺家さんのどんな一席を楽しみ、自分の心はどう動いたのかをまとめておきたい、というのが一連の記録の趣旨である。
12月12日(土)出演者&今月の予定
笑福亭羽光さん:「俳優」
まくらでがっちりと心をつかまれてしまった。
披露されたのは、おそらく中高生でも前のめりになって聞いてしまうであろう、羽光さんの生々しい「マジな恋愛話」。
デート後にありがとうとメールを送ったのに、先方から返事が来なかった・・・・なんて、婚活経験者の私の心に沁みて笑ってしまった。
私を含む「落語初心者」の方にとって、最高のアイスブレイクタイムだったように思う。
ちなみに婚活用語では、上記シチュエーションを「フェードアウト」と呼ぶ。
いやー、私もフェードアウトされまくったなあ。懐かしいなあ。
客席から「えー」なんて声が挙がってしまうようなことも口にする羽光さん。
その言葉や話し方ひとつひとつに、「お客さんを楽しませたい」というホスピタリティがにじみ出ているように思えて、まくらでグッと来てしまった。
ネタは新作落語「俳優」。
主人公が友人に「父親とうまく会話できないからシミュレーションしたい、父親役やって」と言い出したかと思えば、父親役をやってくれている友人に「おやじ、部長とうまく話せないから部長役やってくれ」。
すると今度は父親を演じながら部長役も務める友人に「部長はコンビニ店員役やってください」・・・といった具合の、会話と立場のマトリョーシカ構造がおかしい一席だった。
羽光さんの関西弁と、上方落語ならではの小気味よい拍子木の音が軽快で、「落語、鑑賞中です!」という肩肘張った感覚を抱くことなく終始ニヤニヤしながら楽しんだ。
むしろ、家でR-1ぐらんぷりを観ているときのような親しみやすさ。
そんなことを書きたくてR-1ぐらんぷりについて調べてみたところ、「R」は「RAKUGO」の頭文字だったことを知りびっくり。
終演後に会場を出ると、「ありがとうございました」とお見送りしてくださる羽光さんの姿が!
やっぱり、ホスピタリティがほとばしっている。
入船亭扇里師匠:「田能久」
線が細く、穏やかな語り口の扇里師匠。
ゆったりと、鎌倉のラーメン屋さんで落語を披露したときの思い出をまくらで語ってくれた。
酔っぱらいの常連さん「オオサコさん」の真似は、ご自身でも「似ていたと思う」とのことで、なんというか・・・「淡々とチャーミング」。きゅんとする。
この日の演じてくださったのは古典落語の「田能久」。
芝居役者で親思いの田能久が、母親が病に伏しているとの知らせを受け、興行先から急いで実家に戻っているところで「ウワバミ」に襲われる。
役者ならではの機転をきかせ、「自分は人間ではなく、人間に化けている狸である」と話してピンチを回避。
「ほかのものにも化けてみろ」と言われれば、持参していたカツラや衣装を使って姿を変えてウワバミを感嘆させてしまう。
すっかり懐柔させてしまい、弱みを握ったところで、田能久は近隣の村人たちとともにウワバミを撃退してしまう・・・という話。
演じる噺家さんによってはかなりコミカルにもなりそうだが、扇里師匠はあくまでもゆったり、穏やか。
登場人物が「憑依」する落語家さんの演技を楽しませていただく機会が多かったが、扇里師匠は違う。
ものすごく第三者的というか、天の声というか、教育テレビの「おはなしのくに」っぽいというか、「読み聞かせスタイル」なのだ。
この「田能久」という噺自体も「おはなしのくに」で語られていそうで、扇里師匠の声色やテンポにぴったりの噺であるようにも思えた。
恥をしのんで正直に書けば、心地よくなってウトウトしてしまう瞬間があったのだが、読み聞かせスタイルによるヒーリング効果だったのでは・・・?なんて思ったり(申し訳ありません)。
さて、実は「ウワバミ」という言葉を知らず、とりあえず鑑賞中は「なんらかのバケモンだろう」くらいに思っていたのだが、調べてみればそれは大蛇のことだった。
驚いたのは2つ目の意味で、「巨大なヘビはなんでも丸飲みすることから、翻って、大酒飲みのことを指す」のだとか。
オオサコさん!!!
なるほどこんなつながりがあったのかと、帰宅後に感動してしまった次第である。
扇里師匠も、田能久のよろしく「ウワバミ」に丸飲みされそうになりながら、巧みにやりあっているのかなあ・・・。
玉川太福さん:「天保水滸伝~鹿島の棒祭り~」
「待ってました!」、太福さん。
Podcastで拝聴して以来、太福さんの生の浪曲を目と耳で楽しみたかったのだ。
だって、あまりにおもしろかったから。
「浪曲」というと身構えてしまうのだが、Podcastで配信されたそれは、創作浪曲の「大阪に行ってきました物語」。
格安航空機・LCCを駆使して大阪に行こうとしたというご自身のエピソードに節をつけ、音は浪曲、中身はあるある話という、ビギナーも受け入れやすいものだった。
今日はどんな楽しい浪曲が披露されるのだろうとワクワクしていたら、「今日は古典をやります」とのことで、途端に不安に駆られてしまった。
私、内容を理解することができるだろうか。わからなくて眠くなって、なんてことにならないだろうか。
そしてはじまった「天保水滸伝~鹿島の棒祭り~」。
冒頭の歌(節)、3分経たずして案の定の「どうしよう・・・わからない・・・」状態に陥ってしまった。
このまま30分楽しめるだろうか、とソワソワしているとお話(啖呵)パートに。
酒を飲むとたちの悪い剣豪が一定期間禁酒しなければならなくなり、その誘惑に勝てるかどうか・・・というところだったのだが、立ち寄った食事処で「お神酒」と称して酒を飲んでしまい、さあ大変、という流れであったことは覚えている。
最初数分は、ちょっとでもぼうっとしていると話についていけなくなる感覚があった。
それが不思議と、次第に太福さんの演技力にぐんぐん飲み込まれていたようで、気付けば夢中になっていた。
内容を詳細に理解できている自信はない。「たのしい」というのとも違う。「夢中」なのだ。舞台になっている食事処が、どんどん見えてくる。
最後は食事処で喧嘩になるのだが、そこから先は次の一席に委ねられているとのこと。
ろくに話がわかっていないはずなのに「続きが聞きたい!」という気持ちになっている自分に驚いた。
「古典浪曲」と聞いた途端に身構えてしまったのがいけなかった。
理解しなきゃ、ついていかなきゃと焦る必要もなかった。
心地よい歌声と熱量たっぷりの語りに身をまかせていればよかったのだ。
浪曲、おもしろい。生で拝見してずっしりと実感した。
曲師の玉川みね子師匠の愛らしさもまた、「会場に来てよかった!」と感じた理由のひとつ。三味線の音もとても心地よかった。
橘家圓太郎師匠:「厩火事」
トリは圓太郎師匠。
つぶらな瞳の愛らしさと、まくらでの皮肉交じりのお話しぶりが最高だ。
この日のまくらは、電車の中で遭遇した(おそらく)中年夫婦のお話。
ラグビーの五郎丸選手がかっこいいとはしゃぐ奥さん。「ほんと、すてきよね、ゲンゴロウマル」といった具合である。ゲンゴロウマル・・・(かわいい)。
夫婦の話、ということで披露されたのは古典落語「厩火事」。
働き者の髪結いの奥さん・おさきさんが、6つ年下のイケメン夫と別れたいと言い出す。
というのも、自分は一生懸命働いているのに、夫は働きもせず、家でダラダラ。
なのに自分の帰りが遅いと言って怒るのだ。
そんな愚痴を聞かされた仲人のおじさんは「そんなら別れれば」と返すも、「でも、そうは言ってもいいところがあるの。彼が家に居てくれるから私は終日働きに出られるわけだし・・・」という具合である。
あーあ、いるよな、こういうデモデモ女(私も含め)。
アドバイスを求めている風だけれど、自分の中で何らかの「希望する答え」は所持していて、それに合わないアドバイスをもらうと「でも」と言っては相手の軌道修正に入るのだ。
「家でひとりで、かわいそうなの。がまんしてくれてるの」って、どんだけポジティブなんだよ!その思考ができるなら、日々の生活に活かせよ!
・・・なんてついついツッコミを入れてしまうのも、圓太郎師匠の絶妙な「女の子」演技ゆえだろう。
おさきは相談したのち家に帰ると、例のイケメン夫が、ごはんも食べずに帰りを待ってくれていた。
「ごはん、待っててくれた・・・!」
このときのおさきさん、というか圓太郎師匠の目の輝き!
ダメなイケメン夫に母性を発揮している表情!
どうしておじさん(すみません!)がこんなに可愛く見えてしまうんだろう!!!
最終的に「旦那が大事にしている皿を割って、あなたを心配するか、皿を心配するかで愛を確かめてみろ」というアドバイスに至るのだが、そのやりとりも実にかわいらしかった。
それにしても、本当に古典落語なのか疑ってしまうほど、イマドキ感のある噺である。
ダメな夫を持ったバリキャリ女性に、おさきさんみたいな人、いそうだもの。
安倍首相は一億総活躍、女性活躍の時代だと言うけれど、私も絶世の美女だったら、この話のイケメン夫のような暮らしがしたいもんだなあ。
今月の渋谷らくごは12日(火)まで!
渋谷らくご公式サイトによると、8日(金)からはじまった今月の「渋谷らくご」の予定は以下の通り。
毎日でも行きたいくらいだけれど、どの回に行こうかなあ。
■1月10日(日)
14:00~16:00
立川志ら乃 春風亭昇々 玉川奈々福 橘家圓太郎
17:00~19:00
立川こしら 入船亭小辰 立川左談次 隅田川馬石
■1月11日(月・祝)
14:00~16:00
古今亭志ん八 三遊亭歌太郎 玉川太福 古今亭文菊
17:00~19:00
三遊亭粋歌 昔昔亭A太郎 春風亭昇々 立川吉笑
林家彦いち
■1月12日(火)
18:00~19:00
春風亭百栄 瀧川鯉八
20:00~22:00
柳家喜多八 春風亭一之輔 神田松之丞 柳家ろべえ
※「渋谷らくご」の概要や魅力についてはこちらからどうぞ
※11月の感想(入船亭小辰さん、瀧川鯉八さん、春風亭正太郎さん、隅田川馬石師匠)