8月28日に神保町花月で開催された「第4回よしもと落語会」に行ってきました。
神保町花月に行くのも、吉本興業さんが主催される落語会に行くのも、初めてです。この日ご出演された桂三四郎さん、桂三度さん(世界のナベアツ)、月亭方正さんの高座を観るのも初めて。
方正さんが落語に力を入れていらっしゃることは知っていましたが、実際にその姿を観たことがなかったですし、三度さんも「ピン芸人」からガラッと方向転換されていることもあり、楽しみでした。
桂三四郎さん「全くの逆」(新作)
三四郎さんは、桂三枝師匠(現・六代 桂文枝)の落語CDがきっかけで噺家さんになられた方で、キャリアはもう12年以上。お若くてかっこいいです。
軽快な語り口のまくらで、「落語に大切なのは”こころの距離”であり、面白いか否か以上に大切だ」と冗談めかしておっしゃっていましたが、これは本当にそう思います。大笑いするほどのことではなくても、敢えて声を出す、笑う。そうするとどんどん面白くなってくるんですよね。この感覚は落語会に足を運ぶようになって、知りました。同じ木戸銭を出しても、自分が積極的にかかわるかどうかで充足感が全く異なります。ジェットコースターでわざとギャーギャー言って怖がる人と、おんなじ心理だと思います。
さて、そんな話もありながら、創作落語「全くの逆」を演じてくださいました。「日本語って難しいよね」という話題から、会社の後輩の何気なく発言した「全くの逆」という言葉を発端に、話が広がっていきます。
先輩がとかく「全く」とか「全然」とか、いわゆる「最近、本来の使い方をされていない日本語」に過剰反応する。
「おまえ、”全くの逆”で”腹減ってない”は間違ってる!正しい”全くの逆”は、”背中増えた”や!」
とかく、面倒くさい。しかし後輩は達観しておりまして、「じゃあこれの逆はなんですか」とお題を投げつけまくります。
「ライオン・キングは?
「…タイガー・ホームレス」
「じゃ、企業スローガン。”イッツ・ア・ソニー”は?」
「………イズ・イット・ア・ソニー?」
この、後輩が調子に乗ってからの応酬が最高にくだらなくておもしろかったです。
月亭方正さん「手水廻し(ちょうずまわし)」
はじめて生で見る、方正さん!テレビで観ているとおりの、とってもかわいらしい方でした。表情ひとつひとつがマンガのキャラクターみたいです。
まくらではまさかの「モリマン対決の思い出」を聞くことができました。当時を思い出して笑っちゃいますね。恒例行事だったけど、本当に辛かったんだなあ。「落語はいいですよ、この四角のなかにいたら安全だから」といって高座を指差す方正さんが、たまりません。
演じたのは「手水廻し」。「手水(ちょうず)」とは昔の大阪弁で洗面用具のことです。歯磨きとか。上方古典落語のとても有名なお話だそうです。
上方落語のみの演目であり、現在もなお江戸落語には輸入されていない。おそらく噺の肝となる「手水を廻す」という方言が通用しないためであろう。
手水廻しとは (チョウズマワシとは) [単語記事] - ニコニコ大百科
というわけで、初めて拝見する演目でした。
田舎の旅館に大阪のお客さんが泊まりに来て、「手水廻してくれ」と仲居に頼むものの、方言がわからない。
「…ちゃ、ちゃんずう?」
知ったかぶりをして了承するものの、わからないのだからさあ大変。
宿の主人も頭を悩ませ、皆がわからないまま、最終的に「長」い「頭」のスタッフをお客さんの元へ派遣し、頭を「回」させます。バカにすんなと、お客さんは帰ってしまいます。
これではイカンと、主人は従業員と大阪の宿に向かいます。フットワーク軽い!そこでぎこちなーく、「ちょうずを、まわしてくれますか」と頼めば、仲居さんは「あいわかりました」。
持ち込まれたのは、お湯が張られた大きなタライと歯磨き用の塩。
「…これを、回す…かき混ぜるということか?」
それを料理(汁)だと思い込んでしまったから大変です。ひどくしょっぱい。まずい。決死の思いで完食(?)したところで、「もう御一方分、おまたせしました」と洗面道具が持ち込まれるというオチです。
軽快でコミカルなこのお話は、方正さんにぴったり!
セットも衣装もない1人語りなのに、「ごっつええ感じ」のコントを観ているかのような心地になりました。しょっぱいお湯を、えづきながら涙ながらに飲む様なんて、それこそモリマン対決を思い出しちゃう。
噺家ひと筋でやってきました、というベテランの方の演技はもちろん素晴らしいのですが、方正さんのようなバックグラウンドがある方の高座もまた、大変魅力的です。あれほどのコミカルでリアルな演技は、なかなかできないはず!
桂三度さん「はてなの茶碗」
いちばん見入ってしまったのが三度さんでした。まくらでの「短縮版の時うどん」など、三度さんらしいワザにおどろかされます。ただ、まくらでぽろりとお話しされていた「自分は話し方が落語家っぽくなく、師匠にもよく指摘される」という話が心に残りました。
「だって、こないだまで3ばっかり数えていたヤツが、突然噺家っぽく”エー”とか言ったら、ムカつくでしょ?」
噺家ならではの語り口も耳に心地よいものですが、みんながみんな、そうじゃなくってもいいと思う。そういえば三度さん、上方落語の特徴でもある「釈台」もお使いになっていませんでした。江戸スタイル。いろいろ模索されているのだろうなあと思います。
三度さんならではの噺家像を築き上げてほしい!とても応援したい気持ちになりました。
さて、本題の落語は古典の「はてなの茶碗」。
京都一の目を持つ道具屋の茶金さん。あるお茶屋さんでお茶を飲み、湯飲みをまじまじと見つめて「はてな」と言い残して去っていきます。それを見ていた油売りの男が「茶金さんがあれほど興味深そうに見ていたのだから、とんでもない湯飲みに違いない」と、お茶屋さんにかなりの無理を言って買い上げます。
千両稼いでやると息巻いて、その湯飲みを茶金さんのところに持って行くのですが、「三文にもならない」と笑われてしまいます。と言うのも、あのとき「はてな」と首をかしげたのは、その茶碗が「漏る」から。穴があいている様子もないのにお茶が漏れてくるということで「はてな」だったわけです。油売りはがっかりしますが、「私の名を買ってくれたということに感謝して」と、茶金さんは湯飲みを買い取るのでした。
後日、とある関白と面会していた茶金さんがこの話を披露すると、関白は興味津々。
実際に持ってきてお茶を注げばたしかに漏る。関白は上機嫌で、この様子を歌にしたためます。
その話は帝のもとにまで伝わり、実物を目の当たりにした帝も大満足。その証拠に、湯飲みを入れていた箱の蓋に「はてな」と書きこんでしまいます。三文にもならなかった湯飲みはこうして、本当に千両の価値を纏うことになったのです。
茶金さんがこのことを油売りの男に伝えると、「今度は水瓶を持ってきました」と言うオチです。
茶金さん、油売り、お茶屋さんのやり取りまでは、純粋に「面白い落語」という印象だったのですが、関白登場からがたまらなかった!甲高いマロ声に、会場も湧きました。さらにその後の帝の話し方といったらもう…ここには書けませんが、いや~、最高でした。「ここには書けない」という共犯要素もしっかり盛り込んでくる三度さんがニクイ。
この日同行してくれた、落語を観る習慣のない母も、「三度さんが面白かった」と絶賛でした。
全体の感想
一世を風靡したピン芸人さんの三度さん、タレント活動と並行して噺家をやっている方正さん。こうした経緯を持たれている方の高座を見るのは初めてで、ちょっと抵抗感というか、「タレントさんだしなあ」という心の引っ掛かりがあったのですが、「バックグラウンドがあるからこその唯一無二の芸」を見せていただいた気がします。
噺家ひとすじでやってきている三四郎さんとはまた違う、濃い個性の魅力があり、とっても興味深かったです。なにより、おもしろかった。
全体としては、三四郎さん・方正さんのあと、10分間の仲入りを経て三度さんという、1時間40分ほどの落語会でした。前売り2,000円だったのですが、最近拝見した落語会がかなりボリューム満点のものばかりだったので、時間的にはコンパクトな印象です。集中力が切れたり、お腹が空いたりすることなく楽しめたので、このくらいの時間というのもちょうどいいのかも。
いろんな方の落語会に足を運んでみたいな、と思わされる日でした。
メモ(今日のレビューを書くにあたり勉強になったこと)
上方落語の噺家さんの敬称について
- 江戸落語では前座⇒二つ目⇒真打という昇進制度があり、真打になると「師匠」と呼ばれる
- 上方落語には真打制度がない。「師匠」という敬称は使わないのか?
- 【納得】お弟子さんがいらっしゃれば「師匠」と呼べるらしい
落語家さんへの敬称として「師匠」というのがありますが、あれは真打の方にだ... - Yahoo!知恵袋
衣装について
- 噺家さんの衣装=着流しに羽織 だと思っていた
- 方正さんが袴姿だったので、「上方落語の習慣なのか?」と疑問に
- どうも、衣装についてはあまり規定がない様子。袴姿もいいなと思いました。
落語家の衣装 - その他(演劇・古典芸能) | 【OKWAVE】