出産して初めて知ったことのひとつが「赤ん坊は自力で眠れない」である。
泣くか寝ているかで1日を過ごす生物が、まさか! と思ったが、どうも「寝方」がわからないそうで、「眠い」とは思っているらしい。
そのため「なんか眠いんだけど、この感じを解消する方法がわからんのよ」という不快感で泣くことになる。この現象を「寝ぐずり」などと呼ぶ。
本人はさぞやしんどいだろうと思うものの、こっちだってきつい。
先人たちより伝わりし眠らせるためのテッパン技には「抱っこ」「手でトントン」などがあるが、あるとき突如「タケモトピアノ」という救世主が現れたと伝承されている。
宣教師イチロー・ザイツが「ピアノ売ってちょうだい、電話してちょうだい」と、従者を従えながら歌って踊って教えを説くというものである。
そうこうしているうちに新世代の母たちが、「言いたいことも言えないこんな世の中」に向かって毒霧を吐かんとする「POISON運動」を掲げ始めたり、
いやいやホワイトノイズが最強っしょという一族が現れたり、
目には目を、歯には歯を、赤子には赤子をということで「ボス・ベイビー」が名乗りを上げてきたりと、寝ぐずり対策業界は常に「新種発見」の様相を呈している。
我が家でも新種が見つかった。
毎週楽しみに視聴しているアニメ『パリピ孔明』を観ていたときのこと、そのオープニングソングがかかると娘が落ち着く様子を感じたのだ。
たった1回の効果では「偶然」でしかない。再現性を確認できて初めての「発見」となるが、これがびっくりするほど、何回も効いたのである。
……ははあ、こうして新種は見つかるのだ。
何の意図もなく日常生活を送ることで解決策が見つかる。必死でインターネット検索をせずとも、ふとした瞬間に解決されるのね……と少し感激。
さてこのオープニングソング「チキチキバンバン」、娘がどの部分を気に入っているかといえば、あきらかにイントロである。
テケテケピコピコと、遅すぎず早すぎずのテンポで音符が動く感じというのかなあ。(もしよかったら上記YouTubeをちょびっと再生してみてください)
そういえばタケモトピアノも、POISONのイントロも、ボス・ベイビーも、「テケテケピコピコ」で「ちょうどいいリズムと音変化」が共通しているのでは?
ちょうどイヤホンで自分のお気に入り楽曲をシャッフル再生していたとき、葛城ユキの「ボヘミアン」が流れた。
♪テーレレレレレレ、テレレレーレレー、テーレレレレレレレレレレ、レレ、レー
からの
♪チャンチャチャン~、チャララララッチャチャン~
からの
♪ボベミ゛ア゛~~~~~ン゛!
イントロで「一定テンポでのテケテケピコピコ」を達成している上に、赤ん坊にとってはかなり迫力のある、自分たちがあげている「泣き声」に近いようで遠い「魂の歌声」が聴こえてくる。これこそが最強の「赤ちゃん泣き止むソング」なのではないか?
そんな仮説をもとに、娘の機嫌が優れなそうなときに「ボヘミアン」をかけてみた。
予想通りイントロはちょっと「効いている」感じがする。いけ、そのまま! と思ったものの、Aメロ中途で再び泣きわめくに至った。無念。まだ葛城ユキは早かった。いつか君がコーヒーのような苦いもんを飲めるようになったとき、あのハスキーボイスの魅力がわかるさ、きっと……。
先人たちが発見してきた名曲たちは、やはり「日常のなかでたまたま」発掘されたものだったのだろう。狙い定めると、うまくいかないもんですな。
ちなみに『パリピ孔明』は、死に際にいた諸葛孔明が現世に(格好そのままに)タイムスリップし、一流シンガーを目指す女子を軍師としてお助けする作品。ご興味があればどうぞ。