まもなく、ゴールデンウィーク。
4月末や5月1週目に有休・代休をつなげて長期休暇を取られる方も多いのではないだろうか。
その一方で、休日出勤!ああ忙しい!という方もおられるはず。
関東圏にお住まいであれば、こういうときに便利なのが箱根である。
温泉地への宿泊という形でのんびりするもよし、日帰りの気分転換という形で頭の中を仕事から引きはがすもよし。
この度ご紹介させていただくのは、力強い個性を持った蕎麦屋さんである。
GWも仕事で忙しく、なんだかイライラすることが増えたヮ・・・という働く女性に、特にお薦めしたい。
※本日の目次
■GWに気合いを入れ直したい「テンパり女(テンパリージョ)」に効果てき面!?
■日帰りの楽しみといえば「食」
「Taki blog」さんで箱根の湯葉丼を紹介する記事を拝読し、無性に食べたくなった勢いのまま、週末にふらりと箱根に旅立った。
※こちらの記事。湯葉丼とビール、たまりません。
せっかくなので温泉にも入ってみようか。
・・・となると、化粧を落とすことになるのか?いや落とさず浸かるだけなのか?落とすとなると化粧道具一式が必要だし、あ、髪も洗うのか?ドライヤー?タオル?下着?ウワァどこまで用意すればいいんだ!!
旅慣れていないのに張り切るから、よくないのだ。
身の丈に合った遠出を、ということで、楽しみは湯葉丼を筆頭にした「食」に絞ることにした。
箱根の名物といえば蕎麦と豆腐。
あまり理由を考えたことがなかったが、「おいしい水に恵まれているから」らしい。
とりわけ有名な蕎麦屋さんのひとつ「はつ花 本店」を訪れたのは、もう何年前のことだろうか。
川のせせらぎを眺めながらすする蕎麦は、確かに「とんでもなくおいしかった」と脳に刻まれている。
今回はまず湯葉丼をいただいて、それからはつ花さんに行こう。あのおいしさをもう一度味わいたい。
あともうひとつ、目を見張るおいしい逸品として記憶しているのは和菓子屋さん「ちもと」の「湯もち」。
赤ちゃんのほっぺにかじりついたらこんな感触だろうか、などとつい考えてしまうくらいふわふわのお餅、そして柑橘類の爽やかな香り。
帰りの電車で絶対に食べよう。
確か、箱根湯本駅からちもとさんに向かう途中に干物屋さんがあったはず。
お店の外に七輪と干物が置かれていて、自由に試食できる。
あのシステムをはじめて目の当たりにした時の衝撃といったらなかった。
箱根のパラダイスはユネッサンではなくここ(山里さん)だ!と感激したものである。
気になる干物などあれば、即座に買ってしまおう。
この時期の日帰り旅行なら、冷蔵保存云々もたいした問題ではない。
そして、あとは行き当たりばったりで食べ歩く。最高だ。
■日帰り旅行こそ、綿密な計画が必要だった
ぼんやりと理想のぶらり観光プランを考えながらの旅路。
箱根の地に降り立ったのは、土曜の正午のことだった。
そのまままっすぐ、お目当ての湯葉丼のお店「直吉」に足を運ぶ。
直吉さんは想像していたよりもずっと立派な大きなお店で、その前には既にお客さんの姿がちらほら。
並んでいるわけではなさそうだったので中に入ってみれば、それなりの広さの待合ホールのようになっており、銀行よろしく、順番待ちレシート発券機が設置されていた。
とりあえず券を引っ張っておくと、そこに刻まれていたのは3ケタの数字。
ただひたすらに、愕然とした。
いただけるのは夕方ではなかろうか。そして私は今、空腹である。
券を握りしめてポッケに突っ込み、先に「はつ花」に向かうことにした。
直吉さんの盛況ぶりから嫌な予感はしていたものの、はつ花さんも本店・新館ともに、入店を待つお客さんが列をつくっていた。
こんなにも混んでいるとは・・・。
食事のために行列に並ぶのは苦手である。
ろくな下調べもせず、昔の淡い思い出だけを頼りにぷらっと来てしまったことを後悔した。
そしてなにより、空腹ナウ。
せっかくはるばる来たのだから箱根らしいもの、やっぱり蕎麦で、この空腹を埋めたい。
ただ、いくら行列なしで蕎麦を食べたいといっても、閑古鳥が鳴いているようなお店は御免だ。
どこかないのか!
わがまま極まりない欲望を携えて、箱根湯本駅の方に戻ってみることに。
その道中で出会ったのは、「山そば」。
賑わってはいるが、ひとまず中に入ることができそうだ。
店構えもいい感じ。ラッキー!
グルグル鳴きわめくお腹をさすりながら、暖簾をくぐる。
■テンパり女子のおもてなし
駅からすぐ近くにある山そばさんは、ずいぶん広かった。
町の小さな蕎麦屋さん2軒分はあろう。
お店に入るや否や、2階へどうぞと案内されてぶったまげ。
1階だけでも広いのに、2階もあるのか。すんなり入れたのも頷ける。
老舗感のある、古民家のような店内の2階に上がると、女性のベテラン店員さんたち(40~60代くらい)がせわしなく動き回っていた。
お店の広さ・客席数に対し、店員さんが足りていないパターンだろうか。
特に土曜日ということもあって、お客さんはひっきりなしに入ってきている。
しばし立ち尽くしたものの、階段を上ってきた私の姿を見つけた店員さんに無事に導かれ、若い女性2人組と相席することになった。
無問題だ、座れたことがなによりうれしい。
ほっとすると同時に、空腹感がますます勢いを増してきた。
さあ、何をいただこう。
若干お高いのは観光地ゆえ、仕方ない。
揚げ物好きとしては天ざるをガツンといただきたいところだが、1,850円という価格はなかなかツライ。
よし、名前こそ陽気だが、リーズナブルかつ具だくさんな優等生メニュー「おかめ」に決めた!
注文も決まったことだし、店員さんを呼び寄せなければ。
スミマセーン、と発声するべく息を吸ったものの、私はそれを声にすることができなかった。
感じる・・・女性店員さんたちが纏っている、殺気にも似たピリピリムードを・・・。
そしてこのムード、知っている・・・知っているぞ!感じたことがあるぞ!
かつての職場で!!!
バリバリ働く女性が猪突猛進に仕事に取組み、その一途さゆえ殺気立ち、声をかけようにもかけられなかったあの日々を思い出す。
タイミングが肝心なのだ。餅つきの「餅ひっくり返し係」の如く、瞬間的な隙をついてひょいっとコンタクトを取らなければならない。
「あ、すいません、お茶おかわり」
「かしこまりましたッ(怒)!」
その空気を読まずに果敢に(?)声をかけ、無駄に怒られる男性社員・・・じゃなくて、男性のお客さん。
タイミングを見計らわないからそうなるんだよ・・・。
かく言う私はじっと「時」が来るのを待っている。
すみませんと声をかけたところで、「少々お待ちくださいッ(怒)」と言われるに違いないのだ(※あくまで想像です)。
「待ち」が功を奏し、平和的に「おかめ」オーダーを完了させたものの、次なる事件が目の前で勃発。
相席している女性2人組が注文した「天丼2つ」がきちんと通っておらず、1つしか提供されなかったのだ。
「2つ頼んだんですけど・・・」
天丼を運んだ店員さんは、その声を聞くや否や謝罪するとともに、あからさまなまでにテンパりはじめてしまった。
「エッ、やだ、どうしよ、ごめんなさいね、ああ、もうッ」
厨房のほうに戻りながら、ちょっと!天丼もうひとつ!のような声をあげている。
・・・これも見たことがあるぞ、かつての職場で・・・。
ミスや突発事件が起きると、その人のキャパシティを管理する体内机のようなものがいっぱいになってしまうのだ。
体内机の上にうず高く積まれていく「どうしよう」と書かれた書類たち。
引き出しからあふれだす「私だけのせいじゃないのに」「この忙しいなか、またやること増えちゃった」などと書かれたモノ、モノ、モノ。
そんな机を前に、当の本人は「ああん、もう!」と苛立ちながら声をあげるイメージ。
周囲から助けの手を伸ばそうにも、心のバリア全開(箱根なので、エヴァンゲリオン風に“ATフィールド全開”か?)で、立ち入る隙がない。苦笑いするしかない。
切ないのは、往々にして「本人は一生懸命」という点である。
事態が収拾されていくにつれ我に返り、それまでの自分の振る舞いを思い出しては恥ずかしくて穴に入りたくなる・・・
そんな心の動きが想像できてしまうのは、ほかならぬ私が「テンパり女」だからだ。
過去の自分の醜態(などと書くとこちらの店員さんに大変申し訳ないが)を録画したビデオを見せられているような、なんとも言えぬ恥ずかしさがこみ上げてくる。
苦笑気味の天丼女子たちとともに、笑うことはできなかった。
やおらスマートフォンを取り出し、グルメサイトで山そばさんのレポートを見てみれば、やはり店員さんについて言及しているものも多い。
人のふり見て、我がふり直せ。
日々、私も周囲の方々をこういう気持ちにさせてるってことだよな・・・。
いらない気を遣わせて、本当に申し訳ないな・・・。
例の店員さんは再びこちらに戻ってきて、空になっていた我々の湯呑にお茶を注いでくれた。
「ほんと、ごめんねえ、笑わないでね~」
恥ずかしそうに微笑んでいる。
こんなにチャーミングなのに、いっぱいいっぱいになってしまうとピリピリしてしまうなんて。
私は笑わない、というか笑えない。他人事と思えない。
天丼女子がニヤニヤするなか、妙にシュンとしてしまった。
■肝心の蕎麦は・・・
だいぶ待ったが、おかめそばは無事に届けられた。
先ほどまでのシュンとした気持ちはどこへやら、このビジュアルでぐっとご機嫌になってしまう。
分厚い練り物、ゆで卵!おかめというとわかめが乗っているイメージがあったが、ここでは山菜。うれしい限りだ。
おかめそばは、こうした具の配置が「おかめさん」を連想させるということで名付けられたという。
※参考:
そばのメニュー | ことば(放送用語) - ことばウラ・オモテ | NHK放送文化研究所
さっそくいただくと、つゆの色のとおり味付けは濃いめだが、大根おろしとの相性はその分抜群。
淡泊な味の卵、練り物群を思えば、ちょうどいいかもしれない。
グルメではないので蕎麦の香り云々についての記憶は失念してしまったが、固すぎることなく、伸びすぎていることなく、ちょうどいい食感であったと思う。
ひと言で申し上げれば「おいしい」!
ピリピリムードの店内にあっても、食べているとおかめさんのような顔になれる、満足度の高いお蕎麦だった。
■GWに気合いを入れ直したい「テンパり女(テンパリージョ)」に効果てき面!?
店内は常にベテラン女性店員さんたちの戦いが繰り広げられている。
「同じこといつまでもやっていないで!」
「返事くらいしなさいよ!」
お店の奥の方から微かに聞こえたそんな声に、なんだか背筋が伸びる。
そして過去の自分の醜態を思い出しては恥ずかしくなり、「次に仕事でアクシデントが起こっても、まずはひと呼吸置いてから着手するようにしよう」などと、大人として当然のことを改めて心に誓う、未熟な私・テンパり女(ここはLEON風に、テンパリージョとお読みください)。
おかめそばをすすりながら思うことはただひとつ。
「いままさに、岡目八目の境地」。(“おかめ”だけに)
思い返せば昨年のGWは『アナと雪の女王』を鑑賞し、ひどく落ち込んだのだった。
「ありのままでいることって素敵」というメッセージを発信している作品のような印象があるが、実際には、「ありのままに振る舞ったところ、周囲の方々に大変迷惑をかけた女性の話(エルサ)」である。
鑑賞後、己のわがままな立ち居振る舞いを反省するとともに、「もう大人なんだから“ありのまま”じゃダメ」という学びを得たのだった。
蕎麦屋さんにアナ雪。いずれにしても、「このまま反省せずに過ごしていると、こうなるよ」という未来の姿を見せつけられるショック療法である。
そんなわけで、バリバリと働くオフィスレディーの皆さん、GW中の「山そば」さん訪問はいかがだろう。
敢えてお店が忙しい土日祝に訪れることで、なんらか、共感できるところや気づきが得られるはず。
お蕎麦は大変おいしかったが、相席していた女性たちが注文していた天丼も実に華やかで、その他丼もののクオリティもかなり期待できそうだ。
私も業務に追われ、心がすさむようなことがあれば、また日帰りで訪れたいと思う。
その際は親子丼をお願いし、お店の雰囲気に心身を浸して心を入れ替えるのだ。
ちなみに、戦場と化していた2階から1階に降りたところ、別のお店なんじゃないかと思うほど穏やかな雰囲気だった。
ショック療法希望なら、2階に上がる必要がありそうだ。
食べログなどを拝見しているとかなり辛辣なコメントもあるが、そこまで強い個性のあるお店ということでもある。
このあともう1軒お蕎麦屋さんに立ち寄ったのだが、とてもおしゃれで美味しかったものの、なぜか心の琴線に触れることはなかった。
山そばさん、なぜか嫌いになれない、不思議なお店だ。